22年春夏パリ・コレクション セクシーと上品のバランス=サンローラン

2021/10/01 10:59 更新


 22年春夏デザイナーコレクションは、いよいよパリへと駒を進めた。パリの序盤は若手ブランドが中心のスケジュールとなる。

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〈フィジカル〉

 ファッションウィークの幕開けを飾ったのはアフリカ出身のケネス・イズ。アフリカ系ミュージシャンが生で奏でる管楽器のサウンドはヒーリング感すらあった。サステイナビリティー(持続可能性)に力を入れていることでも知られる彼が得意とするのは、手仕事の風合いが伝わってくるテキスタイル。カラフルなチェックはフリンジとなり、テーラードコートの裾や袖、はたまたシンプルなラップの裾へ流れ落ちる。きれいに切り揃えた細いフリンジ、その繊細さが民芸的になってしまいがちなテキスタイルにラグジュアリーな風合いを与えている。独特の色使いはストライプのシャツ生地をパッチワークしたかのようなオーバーサイズのニットにも見受けられた。トラ柄のスリーブレスコンビネゾンやパネルを配したスポーティーなショーツにも新鮮さを感じた。

ケネス・イズ

 こんなに心暖まるコレクションに出合ったのは久しぶりかもしれない。パンデミック(世界的な大流行)を通して家族とのつながりを再確認したテべ・マググの着想源となったのは〝ファミリーヒストリー〟だった。デジタルプレゼンテーションではテベがホストになり、母と叔母とともに家族写真を振り返る。そんな写真に残された当時の様子や装いをテベの持つ独特の感覚で立体化した。

 レトロ調の花柄ドレスは裾をアシンメトリーにし現代風に。ゆったりとしたカットのトレンチコートやテーラードシャツに使われていたポートレートは、60年代の写真から切り抜いたという。バッググラウンドにあったサボテンをプリントにしたシャツや80年代のパワーショルダーが元になったテーラードジャケットなどシンプルなアイテムも。フィジカルプレゼンではコレクションとその元となった写真のパネルが並んでいたが、テベの家族のおしゃれさに驚かされたのが正直なところ。コロナ禍以前と変わらないソーシャルメディア映えを優先した服や話題作りの協業が多い中で、パンデミックを通して何かを悟ってくれたデザイナーをうれしく思う。

テべ・マググ

 若いクリエイターのイベントが次々と開かれている注目のスペース「3537」で見せたのはヴァインサント。昨年のデビューからドーバーストリートマーケットがパリで主催するショールームで取り扱われていることでも話題になった新人だ。フロントローには「ジャックムス」のサイモン・ポート・ジャックムスや今週「ロシャス」のデビューショーがあるシャルル・ド・ヴィルモランなどの姿。わざとなのかアクシデントか、ライトが付き音楽が流れても始まらない。2回のフライングの後にスタートしたのは、ゲイクラブのショータイムのようなキャットウォーク。巨大なヘッドウェアや頭まで包み込む構築的なミニドレスなど、期待通りのショーピースが登場する。その一方でシルキーなオーバーオールやチェックプリントのシンプルなドレス、過去作品をグラフィックにしたフーディーなど、ウェアラブルなアイテムも並んだ。

ヴァインサント

 ヴィクトリア・トマスの会場のど真ん中に鎮座したのは巨大なピラミッド状のアートワークだ。ピンクのスカートスーツでショーは始まった。ウエストから肘下にかけて一直線にフリンジの切り替えになっているジャケットのラペルは赤でコントラストになっている。テーマは「ミラージュ」。実は今シーズンの多くのアイテムがリバーシブルになっていて、ピンクのジャケットはビビッドな赤としても着用できる。膝に大きなカットアウトがあるパンツやアイレットが散りばめられたスーツも裏返して着られる。アイレットの特性上裏側の片方のメタルの大きさが違うので、面白いコントラストになる。

ヴィクトリア・トマス

(ライター・益井祐、写真=ヴァインサントは大原広和)

〈デジタル〉

 サンローランは、コロナ禍以前にいつもショー会場として使っていたエッフェル塔を望む広場でショーを行い、その映像を配信した。新作はアンソニー・ヴァカレロらしいセクシーさと上品さを感じさせるコレクション。スクエアショルダーのミニやマキシのドレスにかっちりと肩を作ったテーラードジャケット、そこにレギンスやボディースーツがアクセントとなる。フロントにねじりを入れたりホールターネックのようなディテールにしたコンビネゾンはボディースーツのようにタイトフィット。コンビネゾンのトップ部分の布をクロスしたり、アイレットパーツに留めつけたりして、大胆に素肌をさらす。スペンサージャケットのようなショート丈のジャケットはバギーのようなシルエットのパンツにチューブトップというコーディネート。70年代のイヴ・サンローランのような空気も持っている。テーラード襟のコンビネゾンもジャストフィットのショルダーラインから流れるフォルムで、端正なムードを放つ。セクシーであることと上品であることがちょうど良いバランスに保たれている。イヴ・サンローラン時代にアクセサリーを担当したこともあるパロマ・ピカソへの敬意を背景にしたコレクション。

サンローラン

(小笠原拓郎、写真=大原広和)

◆日本人デザイナーがデジタル配信

 若手が揃うパリ・コレクションの初日と2日目に、日本人デザイナー3人がデジタル配信した。

 マメ・クロゴウチのモデルたちは、霧に包まれた水面の向こう側に静かに並んだ。淡い春を思わせる幻想的な空気の中、モデルたちは縦横に歩き出した。霧の向こう側で見え隠れするのは、みずみずしい草花のような淡いパープルやピンクの服。淡くにじむグラデーションや透明感のある植物柄。かすかな光と透明感が目を引き付ける。アイテムは柔らかな曲線を描くセミフレアドレスや、タイトなハイネックトップとテーパードパンツ。ドレスの肩やウエストには楕円(だえん)のカットワークが施され、艶やかな肌をのぞかせる。リネンのドレスも、おぼろげな透け感が女性の肌を美しく演出する。テーマは「ランド」。長野県立美術館で開催した展覧会の準備期間中に感じた春の芽吹きがコレクションになった。

マメ・クロゴウチ

 オーラリーの動画から漂うのは、湖の水面で過ごす穏やかな時間だ。心地良いムードの中、洗練されたリラックスウェアが揃った。キーアイテムは胸元を覆うバンドゥ。オーラリーらしい誠実さが漂うテーラードジャケットやショートパンツも、バンドゥで肌見せすることでこれまでにない開放感を演出する。ホールターネックドレスにネックを深くカットした開襟シャツ、肌に着るジレ。どれも素肌がのぞき、カジュアルとエレガンスが共存する。柔らかなベロアやパイルのドレスも心地良い。アーモンドグリーンやライトカーキ、ダスティーピンクが自然に調和する。

オーラリー

 ワタルトミナガの動画は、今シーズンもポップで楽しい。カラフルでキッチュなプリントの柄オン柄の日常着を見せた。迷路や地図のようなチェック柄に散りばめられたのは、イラストタッチのイルカや花。プルオーバーには丸刈りの人の後ろ姿がプリントされ、Tドレスには果物が散乱している。無作為な柄の同居のようでいながらセンスが良く、インパクトがある。キーボードを打ったり、お辞儀をしたり。日々の動きを360度カメラで撮影した。

ワタルトミナガ

(青木規子)

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