21年春夏デザイナーコレクションは、フィジカル(リアル)のファッションショーとデジタルの映像配信の二つの柱を軸に開催された。コロナ禍を経て、デザイナーたちは何を考え、どんな新作を見せたのか。改めて振り返りたい。
(小笠原拓郎編集委員)
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コロナ禍が契機に
春夏は、フィジカルもデジタルも自然の中で見せるショーが目立った。ロックダウン(都市封鎖)を経て自然への憧れや人とのつながり、人類の生み出してきた遺産へのリスペクトといった意識が高まった。「バーバリー」や「ステラ・マッカートニー」が自然豊かな郊外の森の中を会場に選んだ。「プラダ」や「ヴァレンティノ」の会場にはインダストリアルなムードが取り入れられた。たくさんのカメラを持ち込んだプラダ、ヴァレンティノは鋳造所の空間に木や花を配置して産業と自然との調和を描いた。
ロックダウン下の在宅生活からのアイデアも多い。「アンリアレイジ」は自然の中のテントとともに服を見せ、住居が服になるというアイデアを披露した。「ビューティフルピープル」はクラシカルなペプラムディテールやバッスルモチーフのアイテムを揃えた。そのフォルムを形作るのはビーズクッションで、バッスルスカートがそのままクッションになって座れるというアイデアを見せた。
コレクションを通じてこれからのファッションを感じさせる提案も目立った。ロックダウン中の5月、ドリス・ヴァン・ノッテンらが公開書簡を発表、ファッションサイクルの見直しを提言した。デザイナーだけでなく、ブランドや大型店のCEO(最高経営責任者)も署名に名を連ねたことで、今後のファッションの在り方を模索する動きが注目されている。
背景にはプレコレクションで世界中のVIPを招いての過剰な演出のファッションショーに対する違和感やセールの前倒しへの危機感がある。ファッションショーを見直し、プロパー消化率の向上と適切な時期にセールを行うことで、消費されるファッションからの転換を図ろうというものだ。サステイナブル(持続可能性)への意識の高まりとともに、猛スピードでファッションを消費し続ける売り方ではなく、ファッションを本当に価値あるものとして大切に販売していくビジネスへの転換が求められている。
そんな状況もあってか、春夏はリアルクローズへと引きつけた新作が目立ったシーズンでもある。コレクションと実際に売る製品との乖離(かいり)を見直すという考え方もあったのだろう。ジャージーアイテムなど、着やすさや日常性を意識した商品が増えた。日常そのものが奪われるという現状に、日常生活を楽しむというアイテムが増えたのも事実だ。
しかし、コロナ下で人々が求めているものは、日常性だけではない。心ときめく感動を与えられるファッションもまた必要だ。快適さの一方で、ファッションのファンタジーやスペシャルピースの持つ力を忘れてはいけない。「ミュウミュウ」やヴァレンティノのように、快適さとスペシャル感の両方にアプローチしたデザインが新鮮に映った。
ポジティブな女性像
そんな中、多くのデザイナーが「オプティミズム(楽観主義)、ポジティブ、前進」といったキーワードを取り上げた。困難な中で前を向いてポジティブに歩む女性像が春夏の象徴となる。そんな女性像を描くのに美しくバイタリティーにあふれる色が重要になってくる。
自然の持つ温かみや伸びやかな生命の力を感じさせる雰囲気やスタイルが、ビッグトレンドとなりそうだ。草木の柄、トロピカルなフラワー柄、貝殻や人魚など海の生き物やストーリーを背景にした柄も多い。柔らかな日の光を思わせる優しくきれいな色、クロシェやカットワークレースのハンドクラフトのぬくもり、タイダイや手染めの生地の持つ懐かしさ。自然のパワーをもらってポジティブに生きる女性像に注目したい。
(写真はブランド提供/繊研新聞本紙20年12月8日付)