《新人店長のVMD物語》⑫どう伝える?丈と機能

2017/05/20 06:00 更新


12回にわたって連載中の、架空の百貨店インショップ「ルクリア」の店長、麻紀の成長の物語。副店長の美穂、先輩でスーパーバイザーの瞳、百貨店フロアマネジャーの大谷さんが登場します。

前回、麻紀の的確なアドバイスで副店長の美穂は、難易度の高い柄商品をすっきりとアピール出来る売り場を作りました。今日は、めでたくVMDアドバイザーに任命された麻紀の初仕事を覗いてみましょう。

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麻紀は来月から、ルクリア南城百貨店の店長と兼任で、新たな役職を与えられることになった。かつての上司で今はスーパーバイザーとして各店舗を統括している瞳から、VMDアドバイザーに任命されたのだ。瞳はVMDだけでなく新人教育や店長の育成なども担当しているのだが、順調に増えていく店舗数に、1人では手が回らなくなってきていた。


瞳はVMDの知識が豊富だったので店長時代にはそれを発揮していたが、すでに瞳のノウハウはルクリア全体に浸透しており、今や南城百貨店で大谷マネジャーに鍛えられた麻紀の方がVMD担当にふさわしいと感じているのだ。

「麻紀、次の店長ミーティングから、VMDに関しては麻紀にお願いしたいと思っているの。店長の業務も忙しいと思うけど、副店長の美穂も力がついてきたでしょう? あの子を育てる意味でも、店のことはある程度美穂に任せて、麻紀にはVMDアドバイザーとして皆に助言してほしいんだよね」


こうして、各店舗の店長が集まるミーティングの日がやって来た。各店舗は事前に売り場の様子を何枚も写真に収めており、それを見ながら改善点を探る。

まず、大型ショッピングモールに出店している店舗の写真がモニターに映し出された。それを見ながら麻紀は話し始めた。


「中田店長、このときのVPのメーンカラーはグレーですね。広い範囲でグレーが表に出ていてきれいですね。ところで、売りたい商品は何ですか?」

「売りたい商品はトレンチコートです」

売りたいものを明確にすることは、南城百貨店のルクリアから全店に普及していた。

「ではトレンチコートの何をアピールしたいのですか?」

麻紀は続けて聞く。

「型数が多く、ショート丈、膝丈、膝下丈というように丈の長さが3タイプ選べるということです。それから、ワンピースとコーディネートしやすい丈も見せたいと思いました」


ボディ2体でワンピースとトレンチコートのコーディネートを見せる

「なるほど。それでコートとワンピースをVPで見せているのですね。丈のバリエーションはどこで伝えていますか? 私もよく南城のマネジャーに指摘されるのですが、美しくしてお客様の視線を引き付けることができても、売りたい商品やテーマが伝わらなければ売り上げには結びつかないんですよね」

中田店長の店舗では、前面のVP2体で、モノトーンの柄物ワンピースとグレーのコートをコーディネートしていた。

麻紀は解説した。

「先ほどのお話しだと、第1テーマがアイテムでトレンチコートです。第2テーマがコートの丈のバリエーションです。そして第3テーマがワンピースとコーディネートしやすい丈ということになります。でも、中田店長が作られたこのVPではコートの丈のバリエーションはアピールできていないです」


麻紀はVPの横のラックを指して聞いた。

「横のラックにはVPで見せたコートとワンピースの色違いが掛かっていますね。コートの丈のバリエーションはどこで伝えていますか?」

「それは…」

中田店長は口ごもってしまった。

(続く)

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※この物語はフィクションです。実際のショップ、人物とは一切関係ありません。

(繊研新聞2014/8/4付けの販売・リテイリスト支援のぺージに掲載されたものを元に編集しています)



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