ほんの数年前までは将来なくなる職業の中にデザイナーは含まれていなかった。創造的思考や個性がAI(人工知能)には表現できないと考えられていたからだ。しかし去年話題になったLaMDAなどのAIは、既に個性に非常に近いものを持っており、近い将来AIは個性を持つと自分は信じている。そうなれば個性を持ったAIがネット上にある膨大な情報を元にデザインをするようになる。
では立体(手を使って)で物作りをしている領域が守られるかというと、データ内で立体的造形が始まればそれもすぐに学習されるだろう。人間は自分たちが最も速い速度で進化して来たために人間の進化の速度でAIの進化を想像しがちだが、彼らの進化は私たちの想像をはるかに超えるスピードで行われる。人間がAIを作るのではなくAIが新しいAIを作るようになるので私たちの尺度は通用しない。
シンギュラリティー(技術的特異点)が起こるのは数年前までは2070年とされていたが、45年に変更され、先日25年に更新された。そのような世界で創造性の価値として残るのは、ブランドが持つ文化や哲学、ストーリー、職人たちとのコミュニケーションという私たちの人間らしさなのではないだろうか。
どれだけ進化したデニムが発表されても私たちが「リーバイス501」を愛し続けるのは、そこに歴史や文化という人間らしさが宿るからだ。AIの生み出す洗練か人間が生み出すぬくもりか、私たちは将来何を求め、そして何を選ぶのだろうか。
(「アキラナカ」クリエイティブディレクター)
◇
「私のビジネス日記帳」はファッションビジネス業界を代表する経営者・著名人に執筆いただいているコラムです。