《私のビジネス日記帳》母親譲りの「こんちくしょー」 増本利宏

2023/04/19 06:25 更新


 大正15年生まれのお袋は、浜松生まれ浜松育ちで、「いつも遠州の空っ風に向かって走ってた」という言葉がなぜか記憶に残っている。尋常高等小卒業後、家のために縫製工場で働き、25歳で縁あって大阪のおやじと結婚。そこからお袋の壮絶な戦いが始まった。そう、しゅうとのいじめだ。

 反論は許されず毎日を耐え、米を研ぎながらこんちくしょー、洗濯板でおむつを洗いながらこんちくしょー、布団をはたきながらこんちくしょー。絶対に、しゅうとに聞こえてはならない声。それから昭和・平成・令和を生き抜いて介護施設で車椅子生活となったお袋の様子を見に行くと、うまく立てない自分が悔しいのか、小さな拳でポンポンひざをたたいて「こんちくしょー、このひざがぁ!」と小さな声で怒っていた。そんなお袋も昨年夏に永眠。享年97歳。

 お袋の「こんちくしょー魂」を引き継いでいるのが自分でもよく分かる。

 17年間開催し続けた合同展ドアーズが5月に100回目となるが、この間に人には言えず声にも出せない出来事はいくつもあった。それを言ったらおしまい。「こんちくしょー」は声に出さないから良いのだ。だから継続出来たと思っているし、これからも継続出来ると思う。

 継続は力なりと言われるが、それは誰かに認められるとか、記録を付けて比べるから言えるものだ。でも本当の「継続は力なり」は、より長く生きることだと私は思う。生きている限り続けられる。ただし、その間の「こんちくしょー」は必須だ。

(あるっくじゃぱん代表取締役)

「私のビジネス日記帳」はファッションビジネス業界を代表する経営者・著名人に執筆いただいているコラムです。

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