アンチファッション時代のファッションウィーク(若月美奈)

2019/12/09 06:25 更新


Medium 6 public show

今年もあと1ヶ月を切り、新年1月4日には、20〜21年秋冬コレクションのトップバッターとなるロンドン・メンズコレクション(LFWM, London Fashion Week Men’s)が開催される。

例年なら、仮ショースケジュールが発表されるのは11月中旬。今年も11月初めに10日の週に発表されるという通達があったものの、参加を取りやめるブランドが相次ぎ調整に時間がかかったようで、その週、その翌週になっても動きがなく、11月末にようやく発表された。

2012年6月、何シーズンか行われてきたレディスコレクション最終日のメンズデーが独立する形で第1回を開催。その後、「バーバリー」や「アレキサンダー・マックイーン」などのインターナショナルブランドも加わり、会期は3日から4日に伸びた。

もっとも、3年ぐらい前をピークに、著名ブランドや老舗系ブランドが相次ぎ参加を見合わせ、縮小傾向が進む。となると、著名ジャーナリストやバイヤーの来場も減り、来場者の間でも、「ロンドンメンズ、ヤバくない? なくなるんじゃないの」と言った会話が交わされるようになった。

このほど発表された20〜21年秋冬ロンドン・メンズコレクションのスケジュールの会期は前回同様の3日間。といっても最初のショーは初日の12時から、最終日の最後のショーは11時と、実質的には2日間しかない。注目の新進デザイナー、クレイグ・グリーンとキコ・コスタディノフは今回からパリで見せるらしい。新年早々、いったいどれだけ外国から来場者が集まるのか、心配になってしまう。

数は減少傾向にあるが、注目の若手が相次ぎデビューしているロンドン・メンズコレクション。写真はステファン・クックの20年春夏コレクション

ファッションウィークの衰退はロンドンメンズに限ったことではない。レディスもメンズもパリが一人勝ちで、ニューヨーク、ミラノ、ロンドンといった世界的なコレクションはどこも不振となっている。(逆に上海をはじめとするファッション新興都市は元気だが・・・)

もう、ファッションウィークはいらないのでは?

この疑問は、9月のロンドン・コレクションでも様々なところで話題となった。パネルディスカッションが行われたり、デザイナーやジャーナリストの間で意見が交わされたり、アクティビストによる開催を阻止するデモが行われたり。

そこには2つの論点がある。1つは、ネット時代の到来によるショーのあり方の再考、新作発表のシステムの変化だ。

そもそも、デザイナーが新作を顧客に見せるためにモデルを使ってショーを行うというBtoCのイベントであるクチュールのショーから派生して、アパレルメーカーであるデザイナーブランドが量産する次シーズンの新作をバイヤーやジャーナリストに見せるBtoBのイベントとして始まったのが1970年代。

その後、パリを頂点にミラノ、ニューヨーク、ロンドンなど各都市でデザイナーコレクションが業界の一大イベントとして年2回(メンズもある都市は4回)、開催されるようになった。

30年以上コレクション取材している私にとって、それはついこの間のことのように覚えているのだが、20年ぐらい前まで、パリ・コレクションで発表された新作の写真は、発表後1ヶ月間は1媒体、1ブランドにつき7枚までしか掲載してはいけないという規定があった。カメラマン以外の来場者が、客席から写真を撮るということも、もってのほかだった。

コピー防止がその理由だが、コレクションは、限られたファッションプロのための厳格なイベントだったのである。バイヤーの反応やショーの紹介記事がビジネスを左右する。真剣勝負の空気に包まれていた。

スマホで撮影した写真や動画がSNSを通じて即時に拡散され、オンライン媒体ではショー終了後いち早く全ルックの写真が掲載されることが当たり前となった今となっては、そんな閉ざされたファッションウィークは、想像しがたいファッション史の1幕である。

誰もが簡単に新作の情報を共有できる今の時代、旧来のシステムはどこまで機能するのだろうか。大金をかけてファッションウィークでショーを行う価値はどこまであるのか。

ラグジュアリーブランドは別として、新進デザイナーにとってその疑問は膨らむ一方で、この1年で多くが参加を取りやめ、ルックブック写真の配布などに切り替えた。

そしてもう1つの論点はアンチファッション時代の到来である。

いうまでもなく、人々の生活におけるサステイナブルな対応が急務となり、ファッション産業は、石油産業に次いで2番目に環境への負担が大きい産業という不名誉なレッテルを貼られた。さらに、リサイクルやシェアリングなどと並行して服の寿命を伸ばすことがその対策の1つとして語られる中、シーズン毎に新しい商品を提案するデザイナーコレクションに対する世間の風当たりは強い。

8月には環境保護団体「エクスティンクション・リベリオン」のアクティビストたちが、9月のロンドン・コレクションの中止をアピールするデモンストレーションを行い、一般紙が大きく取り上げた。

タイムズ紙に掲載されたロンドン・コレクションのボイコットを訴えるエクスティンクション・リベリオンのデモ。

もっとも、公式ショー会場の前で行われるこの手の抗議運動は2年前をピークに先細りとなり、今回は開幕時には、4人が立っていただけ。その後、会場前の大通りでデモ行進も行われたらしいが、主要ジャーナリストやバイヤーは他会場でショーを見ていた時間帯で、アクティビストたちと接触することはほとんどなかった。

出くわしたのは、ヴィクトリア・ベッカムのショー会場前でのアピールぐらいだろうか。

1、2年前には何百人というアクティビストがメイン会場はもちろん、有力ブランドのショー会場前に溢れ、来場者に罵声を吐き、大勢の警察官も出動してすったもんだしていたものなのだが・・・

ロンドン・コレクションの開幕時にメイン会場の前でボイコットを訴えたエクスティンクション・リベリオンのアクティビスト。

なぜ、おとなしくなったのか。

抗議運動はPETAを筆頭とする様々な動物愛護団体による毛皮反対運動から始まり、エキゾチックレザーやウールの使用反対、さらにはファッションウィークのボイコットへと進んだ。

そうした中、ロンドン・コレクションを主催する英国ファッション協会(BFC)は2018年9月に開催された19年春夏コレクションから、公式スケジュールに参加している全ブランドの毛皮の使用廃止を発表した。

アクティビストにとっては、それは勝利と捉えるかもしれないが、BFCはサステイナブルという言葉が一般化するかなり以前から、環境問題などに敏感に対応してきた。

ロンドン・コレクションはショーと同時にメイン会場で合同展示会も行なっているが、今から13年前の2006年に、リサイクル素材などを積極的に使ったエコなモノづくりをする新進ブランドを集めた「エステシカ」を発足。当時150ブランドが集まる展示会場の1コーナーで、10ブランド弱が選ばれ新作を発表していた。

「エステシカ」は2013年に終了。それは、ロンドン・コレクション全体が「ポジティブ・ファッション」というキーワードの元、エシカルかつサステイナブルな方向へと舵を取ったことによる発展的解消というわけだ。

その後、環境や人権に配慮して世の中に良い影響を与えるモノづくりを目指す「ポジティブ・ファッション」は、毛皮の不使用などなど様々な試みを取り入れながらじわりじわりと進化し、今年9月、さらにドラスティックな変化を遂げた。

「サステイナビリティー(持続可能なモノづくり)」「イコーリティー&ダイバーシティ(平等性と多様性の重視)」「クラフトマンシップ&コミュニティー(職人技術と地域社会の尊重)」を3本柱に添え、 「ポジティブ・ファッション・デザイナー・エキジビション」という名称の元に展示会を刷新したのである。その、新作を紹介する3つの部屋に集まったのは、全てサステイナブルブランド、そしてそのどれもが無名の新進ブランドだ。

古着や古布を使ったアップサイクル系の素朴な服や靴から、実用が開始されたばかりのリサイクル素材を使ったレディスウエア、100%再生ポリエステルを使ったバッグや水着まで、様々なタイプのサステイナブル商品が紹介された。

こうなったら、メイン会場にはもうアクティビストが反対する標的がいない。

新進サステイナブル系ブランドだけを集めた展示会。大部屋はアップサイクル系が目立つ
ソフィア、ジョージア、ニナのスコット3姉妹がこの展示会でデビューさせたバッグブランドの「グランドトゥルース」。100%海洋プラスチックゴミなどのリサイクル素材でできている

そうした「ポジティブ・ファッション」がアンチファッション時代の到来という2つ目にあげた論点を乗り越える前向きな試みだとしたら、「ショーのあり方の再考」という1つ目の論点に呼応する新しい試みは「パブリックショー」だ。

9月のロンドン・コレクションでは、週末の2日間、メイン会場のショースペースでは20年春夏の新作発表のショーは1つも行われなかった。

代わりに、一般にチケットを販売してショーとパネルディスカッションを行うパブリックショーが開催された。土曜日は「アレクサチャン」、日曜日は「ハウス・オブ・ホランド」と「セルフポートレート」の合同ショーが3回ずつ行われ、2万円前後からという高額のチケットを購入して大勢の来場者が集まった。そこで見せたのは現行シーズンの19〜20年秋冬コレクション。

SNSの発展で、デジタルの世界ではとっくに、ファッションウィークはBtoBイベントではなく、BtoCイベントとして機能しているのだから、BtoCのショーは自然な流れといえる。そこには、会場維持費など、資金繰りの事情などもあるのかもしれないが、少なくとも大勢の来場があり、好評に終わったということで、この新たな試みはまずまずの成功といえそうだ。

少し前にはやはりネット時代に対応すべく、シーナウ・バイナウというプロに向けて現行シーズンのショーを行う動きもあったが、定着には至らなかった。パブリックショーも今後どのような展開を見せるのかは不明だが、 「一度、ナマでファッションショーを見てみたかった」と興奮気味に語る来場者たちを見ていると、ショーには人々の憧れとパワーがあることを改めて感じる。

ちなみに、どこでパブリックショーの情報を得たのか尋ねると、「SNSで知った」と口を揃える。

このほど、来年2月のロンドン・コレクションのパブリックショーの概要が発表され、チケットが発売された。今回は土曜日が「テンパリー・ロンドン」、日曜日が「デ・ラ・バリ」で、1日4回と前回より1回ずつ増えた。

https://londonfashionweek.co.uk/About/London-Fashion-Week-Tickets

パブリックショー2日目のセルフポートレートのショー。ショーとパネルディスカッションに加え、カクテルのドリンクサービスや展示会場の見学(ショーで見た商品などを購入可能)がパッケージになっている

ジャーナリストやバイヤーに新作というよりも新ブランドの存在を紹介する場へ、一般の人々がショーに直に触れファッションをより身近に感じられる場へ。そして、サステイナブルが必須である次世代のファッションをともに探る場へ。

まだまだ試行錯誤の段階だが、アンチファッション時代における新しいファッションウィークの模索は急速に動き出している。

≫≫若月美奈の過去のレポートはこちらから

あっと気がつけば、ロンドン在住が人生の半分を超してしまった。もっとも、まだ知らなかった昔ながらの英国、突如登場した新しい英国との出会いに、驚きや共感、失望を繰り返す日々は20ウン年前の来英時と変らない。そんな新米気分の発見をランダムに紹介します。繊研新聞ロンドン通信員

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