ボンドストリートの新参者TASAKIを訪ねる(若月美奈)

2019/03/13 06:15 更新


1月にオープンしたタサキのヨーロッパ初の旗艦店のお披露目イベントに行ってきた。

ニューボンドストリートのその店は何回か通りの反対から見ていたものの、敷居が高くてふらりと1人で入る覚悟ができず、今回が店内デビュー。地上6階、地下1階からなる店の1、2階部分の店舗をじっくりと見せていただいた。

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香港のコーズウェイベイ、ニューヨークの五番街に続く、世界3位の高額ショッピング街にランキングされているボンドストリートの1平方メートル当たりの平均年間家賃は1744ドルと言われる。南側の大通り、ピカデリーからまずはオールドボンドストリートが始まり、グッチ、サンローラン、プラダ、ドルチェ&ガッバーナなどラグジュアリーブランドの旗艦店が並ぶ。

以前ジョセフがあったところにステラ・マッカートニーができ、今年に入ってからもアレキサンダー・マックイーンが通りの反対側の大きな店に移転オープンするなど、入れ替わりも多いのだが、空き店舗が目立つ他のショッピングストリートをよそに、多くの入店希望ブランドが待機している。

通りはそのままニューボンドストリートへと続き、ジュエラー街へ。ブルガリ、ハリー・ウィンストン、ショーメ、グラフ、ミキモトなどなどが軒を連ねている。タサキはそのジュエラー街の中央付近の170番地。まさに最高の立地である。

お店に入ってすぐ正面のディスプレーケース、そしてエントランスの両脇にあるショーウインドウにはオープン記念の限定ハイジュエリーコレクション「ブリリアント・グレース」が飾られている。ブランドのルーツである海の世界を表現した3グループ、8点が揃うが、目玉はプラチナにダイヤモンドをはめ込んだ海中植物のようにひらひらと舞うボディーに南洋真珠の白蝶が大小2つついた優雅かつ力強いデザインのネックレス。

中央がブリリアント・グレースを代表するネックレス

タサキといえば、以前は社名も田崎真珠で真珠のイメージが強いが、ダイヤモンドも2大柱の1つで、日本ではデビアスからサイトホルダー指定を得た唯一のブランドとして原石から取り扱っているそうだ。

そして真珠。真珠といえば日本が世界に誇るアコヤ真珠が広く知られているが、タサキでは他にも世界で初めて人工取苗に成功したマベ真珠、大粒の南洋真珠も扱っている。このネックレスについた白蝶も、ミャンマーで養殖されたものだという。

実は、今回聞いた話の中で一番印象的だったのが、ミャンマーでの自社養殖場だった。1997年に養殖事業を開始し、その後開設されたその養殖場は、地図にも載っていない無人島だったドーメル島の使用権を得て、水道や電気を引いて作ったそうだ。 現在、島には約200人が住み、養殖場のトップが村長のような存在だという。

ちなみに、このブリリアント・グレースのネックレスのお値段は5800万円(税別)也!

「そんな高いネックレスを誰が買うの?」なんて思うかもしれないが、ボンドストリートやハロッズ百貨店ではその手の商品が普通に売れる。以前、ラグジュアリーシューズのデザイナーが、ロンドンを拠点に選んだ理由は、「世界のラグジュアリーピープルの遊園地だから」と話していた。国内はもちろん世界中から、斬新なデザインの最高級品やサービスを求める人々がわんさかとやってくる、世界にも稀な都市というわけだ。

高額だからベーシック、ではなく高額だからこそモードなものを、なのである。なんたってここは遊園地なのだから。

と言っても、一般庶民としては思わず「ところで、このお店では一番お安いものでいくらぐらいなのでしょうか」と聞くと、「10万円台ぐらいから揃えています」とのことだった。

プラバルによるTASAKI Atelier。中央は親指に通して手の甲にすっぽりとはまる指輪とブレスレットの間のような不思議なジュエリー

限定商品のコーナーとともに入り口付近には2017年からクリエイティブ・ディレクターを務めるプラバル・グルンのデザインによる「タサキ・アトリエ」が置かれ、その奥には前クリエイティブ・ディレクターのタクーン・パニクガルのユニークなデザインが揃う「タサキ・コレクション・ライン」、英国を拠点とするメラニー・ジョージャコプロスによる「M/Gタサキ」がある。

メラニーの存在は忘れていたのだが、商品を見てすぐに思い出した。彼女には以前、ロンドン・コレクションの展示会場で、新進ハイジュエリーブランドを集めた「ロック・ボールト」のコーナーで話を聞いたことがある。そういえば、その時、自身のブランドに加えてタサキと仕事をしていると言っていた。

メラニーのデザインは1度見たら忘れない。だって、真珠が真っ二つに切られているのだから。ロンドン・コレクションでも、ありそうでないその斬新なアイデアは目から鱗で、ほかの参加デザイナーの作品が全く印象に残らなかった。

2013年にスタートしたメラニーによるM/G TASAKI。このネックレスは真珠の切り口がゴールドで覆われているが、切りっぱなしで芯が見えるデザインもある

2階にはジュエリーに加えて時計もある。タサキが時計を扱っていることは知らなかったのだが、2015年からと比較的新しい商品ラインだそうだ。

店内には一足早く桜が飾られ、ジャンパンとともに升酒もサーブ。そういえば、今回の招待状も、「寿」の文字がどーんと記された和風の仕様だった。その大胆かつさりげなさと品位が共存する世界観に乾杯! 

落ち着いた雰囲気の2階の売り場。その上の3階はVIPルームになっている
2階に飾られたリファインドリベリオンカットのダイヤモンドがはめ込まれたリング。ラウンドブリリアンカットを逆さまにして独自の輝きが出るようにしたデザインは、原石から取り扱うタサキならでは
会場では、日本のバーニーズ・ニューヨークのPRを経て、現在ロンドンでPRやコーディネーションを手がける友人のスティットソン小池志芳さんと再会。着物姿の彼女がすんなりと店に馴染んでいた

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あっと気がつけば、ロンドン在住が人生の半分を超してしまった。もっとも、まだ知らなかった昔ながらの英国、突如登場した新しい英国との出会いに、驚きや共感、失望を繰り返す日々は20ウン年前の来英時と変らない。そんな新米気分の発見をランダムに紹介します。繊研新聞ロンドン通信員



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