アジア系ロンドンデザイナーが気になる理由(若月美奈)

2014/12/10 15:01 更新


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ロンドンの街もクリスマスイルミネーションに溢れ、パーティーシーズン真っ盛り。

イルミネーション点灯イベントに展覧会のオープニング、英国ファッション大賞受賞式・・・。連日のような素敵なお誘いに、「これはお仕事です」と自分に言い訳し、夜な夜な繰り出している。クリスマスまでの1ヶ月間に、いったい何杯のシャンパンを口にするのだろうか。

そんな中、先日お招きいただいた「セルフポートレート」のブランド設立1周年記念ディナーは、そのセンスの良さにひたすら感心する素敵な一夜だった。


  

 

セントマーチン美術大学でファッションを学んだハン・チョンが2013年11月に立ち上げた「セルフポートレート」は、ラグジュアリーな素材を使いながらも、お手頃な値段がウリのコンテンポラリーブランド。ドレスをメーンアイテムにドレッシーかつスポーティーなデザインに今の気分がいっぱいにつまっている。

ロンドンではセルフリッジ百貨店でエクスクルーシブ販売。その他ネットなどで販売していたが、3シーズン目になる2015年春夏から本格的に卸売りをスタートしたところ、世界87の有力店が買い付けた。日本でも伊勢丹やミッドウエストなどが取り扱うそうだ。

 1周年記念パーティーは40人のプレスやバイヤーを招き、北ロンドンのコンテンポラリーギャラリーで開催された。1階でのカクテルレセプションに続き、アート作品が並ぶ裏庭を通ってエレベーターで上階に着いた途端、皆がいっせいに「ワァーオー」の歓声。ガラス張りの窓際に新作コレクションがずらりと並んでいた。

写真ではなかなか伝わらないのだが、絶妙なライティングに照らされたドレスの数々は、1着1500ポンドは下らないラグジュアリーなムードに満ちていた。でも、実際には250ポンド前後(4万円強)ととってもお手頃なのである。これは売れる。

実はショールームで新作を取材した時に試着させていただいたのだが、細いショルダーストラップで背中がぱっくりとあき、ブラジャーができないようなデザインのレース地のドレスを素肌にそのまま着ると、胸の部分に絶妙にはめ込まれたアンダーピースが自然にバストを隠し、ストンとボディーを心地よく包んでくれる。そう、実にプラクティカルな服でもあるのだ。

 デザイナーのハンはマレーシア出身。なんとも親近感のあるアジアンフェースである。

キャンドルで照らされた幻想的なディナーテーブルで、来客に笑顔をふりまくちょっぴりシャイで人当たりのいい彼を見ていて、ロンドンファッション界のアジアンパワーを再確認した。


  
ハリのあるレース地を多用したセルフポートレートの2015年春夏コレクション(左)と、デザイナーのハン。
一緒にいる女性はアジア市場を手掛けるセールスエージェントのエレン


ロンドンで今、アジア系新進デザイナーの活躍が目覚ましい。ニューヨークではかなり前からアジア系デザイナーが次世代をリードしているが、ロンドンは4、5年前まではほとんどいなかった。

それがふと気がつくと、ロンドンコレクションにもアジア系新人が続々とデビューしている。

 まずは韓国人。今シーズン、公式スケジュールのトップバッターでショーを見せたジャッキー・リーがデザインする「J.JS.リー」、そして同じく初日にショーをみせた「ユードン・チョイ」。

ジャッキーは2009年にセントマーチン美術大学修士課程を、ユードンは2009年に王立芸術大学(大学院)を卒業し、ロンドンでブランドを設立。ビジネスも順調で、ドーバーストリートマーケットやセルフリッジ百貨店といった有力店で販売されている。

今シーズンはじめてプレゼンを行った注目の新人「レジーナ・ピュウ」も韓国人だ。アメリカのアーティスト、ジョエル・シャピロのダイナミックな作品が発想源という新作は、直線カットを多用し、スカートやドレスには意表をついた場所にスラッシュが入っている。

正直、とびきり個性的というわけでもなく、他にもいくらでもありそうなコレクションなのだが、なんとも微妙なフォルムが、すぐに彼女のデザインだとわかるしたたかな服。パリのショールームでは、初日朝からバイヤーがハンガーラックいっぱいにセレクトしていたのが印象的だった。


  
レジーナ・ピョウの2015年春夏コレクション。写真=藤原徹治


そして、韓国に続くのが香港、中国系。

毎シーズン、ドリーミーなプレゼンテーションが見逃せない「ライアン・ロー」は香港出身。大御所ジャーナリスト、スージー・メンキスがワールドコレクション終了後、グローバルなクリエーションでありながらも母国の良さを絶妙に取り入れている注目の4人の1人としてヴォーグ・コムで紹介していたのが、中国出身の「フーシャン・ザン」だ。


 
 フーシャン・ザンの2015年春夏コレクション。写真=藤原徹治

  
スージー・メンキスのインタビューを受けるフーシャン。写真=藤原徹治

 

ここまでは公式スケジュールだが、その予備軍が集まるオフスケジュールイベントのファッション・スカウトに参加してショーを見せる若手には、韓国、中国系が溢れている。

前シーズンの中国人「シアオ・リー」に続いて今シーズン、審査によって招待デザイナーとしてショーを披露するメリットアワードに選ばれた新人の「ギョ・ユニ・キム・チョエ」は韓国人の男女2人組み。アンチファーを唱え、庭師と軍人をオーバラップさせた新作を着たモデルたちは、拳銃のようなイメージのじょうろを片手にランウエーを闊歩する。

このデュオ、ギョ・ユニは今年セントマーチン美術大学を卒業したが、パートナーの女性、キム・チョエはなんとまだレイベンズボーン大学在学中の学生なのだという。

 


ギョ・ユニ・キム・チョエはファーストルックの紙人形を作り、組み立て説明書とともに配った


そう、学生。学生を見れば、今の韓国系、中国系ロンドン新進デザイナーの活躍がごく自然な流れであることは一目瞭然である。最近また多少増えているが、一時期日本人留学生がぐっと減ったセントマーチン美術大学やロンドン・カレッジ・オブ・ファッションの卒業ショーには、7、8年ぐらい前からやたら韓国人留学生が目立ち、その後その流れが中国人へと移った。

今となっては中国人の数は半端じゃなく多く、まさに一大勢力。さらには、マレーシアやタイなどまで、とにかくアジア系留学生が溢れている。彼らのうち、卒業後母国へ帰らずにロンドンを拠点にデザイン活動をはじめた若手がいよいよ頭角を現し出した。

と、まあ、数という点ではアジア系、中でも中国系デザイナーの活躍は顕著なのだが、今、彼らのことが気になる理由はそれだけではない。

 今シーズンも、100を超える英国を拠点に活動する様々な国籍の若手デザイナーのコレクションを見たが、ショーというよりも展示会で作品を手にした時、「このデザイナーはイケている」と目をとめるのが、面白いようにアジア系、特に中国人だった。

話は、冒頭の「セルフサービス」で触れた「今の気分がいっぱいにつまった服」に戻る。

「今の気分がいっぱいにつまった服」、つまり「イケている服」には、シーズントレンドではなく、もう少しロングウエーブで見た、今の時代の顔がある。それは何か。

 「ハリ感」に尽きる、と思っている。

ネオプレンが注目素材として浮上したころからその流れはきているが、さらに進化して、今の時代の服は、たとえレースやニット、あるいはシルクサテンであっても、触った時に想像していた以上のハリがある。そのハリがもたらすニュアンスは、構築的でありながらも軽く、ある意味柔らかい。でも、独特の重量感もあり、スポンジのような弾力性がある。

なんだか矛盾したような話だが、例えば「ケンゾー」や「シモーネ・ロシャ」(彼らのクリエーションにもアジアの血が流れている)、あるいは意外なところでは「DKNY」などの新作を触ると、その感覚がよくわかる。ショーや写真を見て同じようなデザインの服でも、このハリ感があるかないかでは、全く別物なのである。

「今どきのハリのある服」。もちろん、アジア系デザイナーがすべてそうであるとは限らないが、もう随分前から、卒業ショーなどで決して完成度が高いとは思えないレベルのものであっても、中国人や韓国人の服にはかなりの共通項として、これが存在していた。

そんな視線でロンドンのアジア系新進デザイナーの作品を見ていると、同じアジアンフェースをしたロンドン在住者としては、母国日本以上に中国や東南アジアにシンパシーを感じてしまう。



あっと気がつけば、ロンドン在住が人生の半分を超してしまった。もっとも、まだ知らなかった昔ながらの英国、突如登場した新しい英国との出会いに、驚きや共感、失望を繰り返す日々は20ウン年前の来英時と変らない。そんな新米気分の発見をランダムに紹介します。繊研新聞ロンドン通信員

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