あるメンズ専門店はアメリカブランドの革ジャンを販売していた。他の店でも買えるオリジナルとは違い、革の種類や色、ディテールもその店用に別注する。顧客の好みに合わせた限定商品なので毎シーズン、入荷するとかなりの確率で完売する人気商品だった。
久々にその店を訪ねると、ちょうどその別注とおぼしき革ジャンが並んでいた。ここ数年の急激な円安にもかかわらず、価格もコロナ禍前と変わらず据え置いていた。聞けば、生産国を変更したそうだ。
元々は米国製だったが、生産コストの上昇で年々原価が上がっていた。粗利益を削って価格を抑えていたが耐えきれず、少しずつ価格転嫁することにした。1.5倍まで値上げしたところで、売れ行きが目に見えて鈍化し始めた。
仕方なく、同じデザインの商品をアジアで生産することにした。入荷した商品は、素材も縫製もグレードも米国生産と比べて遜色がなかった。今春から値上げ前の価格に戻したが、売れ行きは順調とのことだった。
話はここで終わりではない。せっかく見つけた新しい工場が、早々に値上げを要請してきた。人件費が上がっており、前年と同じコストでは仕事を受けられないという。アジアの経済成長が続く一方、日本はGDP(国内総生産)でドイツに抜かれ、世界4位になった。この種の話はこれからもっと増える。