笑顔には種類がある。唇を閉じて口角を上げる、上の歯だけ見せる、上下の歯を見せるといった具合に喜びの度合いで口の開きが変わる。販売員の方なら研修や朝礼で、手鏡で自分の顔を見ながら、口角を上げて練習をした覚えがあるだろう。
実際にやってみるとわかるが、接客中に自然に笑顔を見せるのは簡単ではない。練習だけでは不十分なので、販売員は店頭で実践を積み重ね、自分流の自然な笑い方を身に着けていく。
笑顔の利点は視認性にある。店の前を通りがかったとき、目が合った売り場の奥にいる販売員が自分に向かって口角を上げている表情を見ると、客は安心感を覚える。問題はこの3年、マスクで顔の下半分を隠した状態での接客を強いられたことだ。
ある専門店は開店前にスタッフ全員で改めて笑顔の練習をしたという。マスクの下で口角を上げるだけでなく、目尻を下げ、目を細め、顔の上半分の表情だけで笑っていることが遠目から見ても伝わる練習を何度もやったそうだ。
人間は相手が本当に笑っているかどうか、口元ではなく、目が笑っているかで見抜けると聞いたことがある。3月中旬から着用は個人の判断に委ねられるらしいが、マスクをしていてもしていなくても、笑っていることが伝わる販売員がいる店なら、客は安心して買い物を楽しめると思う。