箱根路をわが越えくれば伊豆の海や沖の小島に波のよるみゆ――鎌倉幕府3代将軍、源実朝が新年の箱根権現参りの帰りに詠んだとされる一首だ。昨年の大河ドラマで話題になった通り、激しい勢力争いの中で敵味方が入れ替わり続ける陰謀と戦の時代。武運を祈る恒例行事とはいえ、今よりずっと厳しかった山越えの旅の帰路、ようやく海が見えた時の安堵(あんど)とすがすがしさが伝わってくる。
気持ちを新たにする初詣。皆さんは何を願っただろうか。健康と安全はもちろん、開運、厄除け、商売繫盛は欠かせない。そして、平和への祈りも強まったかもしれない。当たり前と思っていた環境が、意識的に求める対象へと変わってしまった。
戦火は歴史物語の中のものではなくなった。一度、戦争を始めれば、終わらせるのは容易ではない現実も知った。その荒波を繊維・ファッションビジネス業界も受けている。
しかし、だからこそと言うべきか、この業界は平和を希求し、平和に貢献する産業であると堂々と宣言したい。決して戦争に加担することがない産業を応援する立場として、ここに働く人々の愛と知恵、創造への営みは誇りだ。
改めて、新しい年が明るく実りあるものになるよう予祝したい。石川啄木の次の歌は、いかがだろう。「何となく、今年はよい事あるごとし。元日の朝、晴れて風無し。」