《めてみみ》逆転の発想

2021/01/29 06:24 更新


 21~22年秋冬パリ・メンズコレクションが閉幕した。前回に続き、デジタル配信がメインとなったが、日本のブランドがフィジカル(リアル)のショーを行ってファッションウィークを盛り上げた。

 デジタル映像は決してフィジカルのファッションショーの代わりにはならない。それはこの間、誰もが感じていることだ。服の持つエネルギーやクオリティーを実感できるのは、やはり現場で見るファッションショー。だから、この半年は感動や購買欲をかき立てられるものになかなか出会えなかった。どんなに上手に映像を作っても、「映像がすごいな」とは思えるのだが、「服がすごいな」にはたどり着かない。

 だったら、フィジカルショーの映像を加工して、現実と仮想の間で遊んでしまおうとしたのが「ダブレット」のデザイナー、井野将之だ。ショーではモデルを後ろ向きに歩かせ、配信した映像はそれを逆回しにした。実際にショーを見ていない人にとっては普通のショーの映像だが、背景に移り込むものの時間が逆回転している。フィジカルとデジタルのどちらが現実でどちらかが仮想なのか。そんなことを考えさせる〝逆転の発想〟。

 しばらくはデジタル映像がコレクション発表のメインにならざるを得ない。それを工夫してどれだけ魅力的にするのか。それもデザイナーの仕事だ。



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