《めてみみ》自由への希求

2019/04/17 06:24 更新


 三井不動産が運営する「コレド室町テラス」が今秋、東京・日本橋にオープンする。目玉の一つが台湾・誠品グループが有隣堂と組んで運営する書籍や雑貨を集めた複合ショップ「誠品生活」。誠品生活は台湾を中心に香港や中国本土で多店舗あるが、中華圏を超える初の例となる。

 創業者の呉清友氏は広く名を知られた人だ。実業家というだけでなく「同じ店は一つも無い」と言われるほど個性のある店作りを通じて、台湾文化の育成や発信に力を注いだ。三井不動産も4年がかりで出店交渉したと聞く。残念ながら呉氏は日本橋の店を見ることなく17年に亡くなった。

 台北に1号店がオープンしたのが89年。世界最長、40年近くにおよぶ戒厳令が解除されたのが87年、開業はわずか2年後のこと。戒厳令の時代は、当局によって言論の自由が大きく制限された。呉氏は1950年生まれ。青壮年期の大半を出版や書籍販売が厳しい制約を受けていた時代を過ごしたことになる。積極的な店舗展開を進めた背景には、言論の自由を謳歌(おうか)しようという特別な思いがあったに違いない。

 訪日外国人客が増え続ける一方で、なぜか近隣の国や地域との外交関係はなかなか改善しない。その中で、台湾は友好関係が続く大切な存在。誠品生活の進出を機に、台湾との相互理解がさらに深まればと願う。



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