《めてみみ》小さな積み重ね

2019/03/06 06:24 更新


 昨年末に上海で引っ越しをした。物件探しのため日系、中国系それぞれの不動産屋に問い合わせた。中国系の不動産屋で案内してくれた若者は片言の英語を話せたが、日本語は全く話せなかった。日本人を案内するのは初めてという。

 「お前は日本の漫画が好きだから担当になれ」。そう社長から言われたと自己紹介した。どんな漫画が好きか質問すると、漫画をあまり読まない私でも知っている有名な題名をいくつか挙げた。それらの作品は中国語にも翻訳されているらしい。

 内覧後に家賃を聞くと、若者は「いち、に、さん」と指を折りながら日本語で数え始めた。そして、該当の数字になると数えるのをやめた。何回か繰り返し、それぞれの桁の数字を教えてくれた。前日にネットで調べて日本語の数字を覚えてきたという。

 ここ数年、日本の漫画やアニメのイベントが上海市内でも頻繁に開かれるようになっている。商業施設のグランドオープン記念で行われた声優との交流イベントでは、多くの地元ファンが集まっていた。最初は通訳を介してファンとやり取りしていた声優が片言の中国語で語り始めると、ファンたちも片言の日本語で答え始めた。途中で通訳が橋渡しすることもあったが、会場は大いに盛り上がった。こうした小さな積み重ねが、相互理解への近道だと思った。



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