原単位の違いをどう克服するか
「メード・イン・ジャパン」。店頭には、この文字があふれ始めた。日本製=安心・安全という信頼感が改めて注目されているからだ。しかし、日本製は市場に供給される衣類のわずか3%に過ぎない。14年に国内で生産された衣類は1億2167万点で、関心の高さにもかかわらず前年に比べて10・3%も減った。訪日外国人にも人気の高い日本製だが、生産量の減少に歯止めはかかっていない。このままでは日本製の衣類が好きな時に手に入らなくなる日が来るかもしれない。日本の物作りが置かれている現状と、生き残りを模索する企業の取り組みを紹介する。
コンビニより安い
「縫製工場の時給がコンビニエンスストアより安いので若い人たちが集まらない」。そんな話を産地でよく聞く。円安や中国、東南アジアでのコスト上昇を理由に国内生産を再開しようとする動きがあるのも事実だ。ただ、一方で支払われる工賃は大きくは改善していない。スタイレム子会社の縫製大手、東京クロージングは、7月24日に業務を終了、清算手続きに入った。「人件費の高騰に高齢化、原料や資材の高騰などで今後の事業継続が困難と判断した」としている。
消費低迷の影響で仕入れる側も、日本製でもできるだけ安くという意識は強い。そのため価格転嫁が思うように進まないのは、企業の規模を問わず製造業が一様に直面する課題だ。欧州ブランドから高く評価される日本のテキスタイル産業も要の染色・加工や織布などの多くが倒産し、生産チェーンが維持できなくなりつつある産地がある。
フル稼働が前提に
製造業と流通業との間にある溝は深い。製造業は名前の通り製造設備を持つ。糸なら紡績機、織物なら織機、染色なら染色機と、それぞれ専門の機械がある。設備は大規模なものがほとんどで、一度に大量の素材を作りコストを抑えている。糸にしても織物にしても100年前と構造は、ほぼ同じ。設備の進化で品質の良い物を安定して作れるようになってきたが、同時に大きな設備投資と運転コストが必要になる。そのため製造業の収益構造は、良い物を大量に生産しバランスを取ってきた。フル稼働が前提だ。
尾州の婦人服地の機屋を例にすると、89年ごろの平均モデルは粗利15%強、経費11%、銀行金利(糸仕入れなどで関連)2・7%、営業利益・経常利益2・8%。94年は粗利16%だが、経費14・5%、営業利益・経常利益1・6%に悪化した。その後も悪化が続き08年のリーマンショック後は、粗利を経費が上回り、営業赤字2%前後となり、倒産・廃業が相次いだ。こうした状況は産地企業にほぼ共通すると考えられる。
この業績変化は製造業の海外移転と歩調が一致している。日本での消費の多様化が言われるようになり、定番品は海外で作り差別化品は国内で作る動きが広がった。さらにプロダクトアウトからマーケットインへの発想転換が官民で言われ、ファッションビジネス全体の産業構造が変わっていった。
発注する企業単位では多品種小ロットが進んだが、マーケットインが浸透すると商品の同質化による価格競争が激化してアパレルの採算が悪化した。大量生産型の設備で多品種小ロット生産を行えば、製造業の採算も当然悪化する。しかし、売る側も利益率の悪化で製造業のコスト増には応えられず、悪循環に陥った。尾州の例からも分かるように、粗利は変わらないが生産効率の悪化もあり経費が上がり続けている。生地の単価が海外生地に引っ張られて下がって以降、戻らないことも大きな要因だ。多くの製造業が、新たなビジネスモデルに対応した設備を導入できないまま、収益が悪化し消えていった。
マーケットインの発想を突き詰めると、「個」への対応だとする企業も現れている。製造現場からは「今は行き過ぎたマーケットイン」との声も上がる。作る側と売る側の「原単位の違い」をどう克服するのか。業界の知恵が求められている。
(繊研 2015/06/08 日付 19253 号 1 面)