ロンドン・ファッション・ウィーク・フェブラリー2021 世界の若手のショーケースへ

2021/02/25 06:27 更新


 ロンドン・ファッションウィーク・フェブラリー2021は、ロックダウン(都市閉鎖)による政府の規制により開催1カ月前にデジタルのみの開催が決まった。フィジカルなショーや展示会を準備していたブランドは急いで代替え策を取らねばならず、発表時期を延期したデザイナーも多い。一方、男女の同時発表と、デジタルが国境を超えた若手の参加を促したこともあり、参加ブランドは92。初日には31の映像発表がある強行スケジュールとなった。新作をより深く理解してもらうためにいかに効果的に見せるのか、映像制作の力量が問われる。ブレグジット(欧州連合離脱)ということもあるのだろうか、英国的なものが見直され、タータンチェックが目立つ。レパードを筆頭とするアニマル柄も様々なこなしで多用されている。

(ロンドン=若月美奈通信員)

【関連記事】「トーキョー・ファッション・アワード」受賞6ブランドが配信

 図書館や人が行き交うマーケットが恋しいというモリー・ゴダードが、ロックダウンで閉じこもって着想を求めたのは自宅にあった本。その結果は、自宅で素敵に装う人々や家族の肖像などに始まり、英国的なものへとたどり着いたようだ。ピンクのタータンのボリュームドレスにはアーガイル柄のタイツを合わせ、チュールドレスにはキャンディーカラーのフェアアイルベストを重ねる。ダブルブレストのウールコートの上襟は真紅のベルベット。そんなスウィートなクラシックアイテムやロマンティックなチュールドレスに、メタリックに輝くプラットフォームブーツを合わせて強さを出す。1年ぶりに登場させたメンズもフェアアイルセーターにキルトスカートといった鮮やかな色の英国調アイテムで構成され、タータンのパンツにはこのブランドならでのフリルを飾ったジッパーが太ももや裾に散りばめられている。無観客ショーの会場は自身のアトリエ。真っ白いギャラリー空間をゴールドに染めて楽観的なムードをアピールした。

モリー・ゴダード
モリー・ゴダード

 エドワード・クラッチリーは物作りの裏舞台を見せる映像を披露した。英国内を中心に一部イタリアの老舗メーカーで作り上げる生地をメインに、帽子や靴、ジュエリーまで、伝統をベースに大胆なひねりを加えたクリエイションの制作現場を紹介した。画面には生地を織りプリントする工場の様子と、モデル着用の新作映像が半々、あるいは交互に映し出され、デザイナー自身がそれぞれのメーカーや手法について語る。

 カシミヤ100%のスーパーリッチなツイードコートやメリノウールのヒョウ柄ジャカードコート、ブルゾンは織機に糸が並び織られる前にプリントするため奥行きのあるにじんだフロッグスキン模様が浮かぶ。裾ゴム仕上げのシャツとタイトスカート、リサイクルポリエステル100%の伝統的なモアレのシャツブルゾンといったレディスおよびメンズウェアが揃う。色はブラウン系の落ち着いたもの。微妙なオーバーサイズ感や中国の壁画から採用した人物のコラージュ柄でひねりを加えながらも、いつもよりもしっとりとした雰囲気にまとめている。60年代の連続ドラマからアイデアを得た、カラーをつけた上から巻くスカーフに見立てたワイヤ入りのヘッドスカーフや、伝統的なコインローファーに大げさなフリル飾りをつけた靴を合わせてエキセントリックに着こなす。

エドワード・クラッチリー

 エデライン・リーは音声のみのショーという斬新なアイデアに挑んだ。「メモリー・オブ・ア・ドレス」と題した短編ドラマで、若い女性の声を発するコンピューターの質問に誘導されながら、女優のリディア・レオナルドが演じるジョージアが、今は亡き母の1着のドレスにまつわる思い出を感情豊かに語るもの。画面にはタイプアップしたセリフだけが映し出され、最後にこの物語に触発された幻想的な映像をバックに撮影したルックブックが登場する。ルックブックは通常の写真ではなく、一部がスマートフォンでライブ撮影した時のような動く写真になっている。「1着の服に記憶と郷愁が宿るさま、1着の服の魂が着る人に安心感や自信、パワーを与えることを伝えたかった」とリー。新作は、オフホワイトにダークグリーン、ブラウン、マスタードを加えた落ち着いた色調で、ずっしり厚手のプリーツや布のつまみを多用した複雑なカッティングのワンピースやペグトップシルエットのパンツなど。オーガニックコットンのスウェットトップやショールのようなカーディガン、ウエストゴムのパンツといった部屋着のようなアイテムも加わり、凛(りん)とした働く女性のワードローブをアップデートした。最後には、再び華やかなパーティーに行ける日が来ることへの願いを込めて、ギラッと輝くジャカード柄のドレスを加えた。

エデライン・リー

 前シーズン、大半のブランドが断念する中、従来の形のランウェーショーを強行したボラ・アクスとマーク・ファストは、今シーズンもそのスタイルにこだわる。飾り気のない無観客のショー会場で淡々と繰り広げられるショー映像は、今となっては逆に新鮮に映る。

 ボラ・アクスはロックダウンで休館中の美術館テート・ブリテンの重厚な空間で、透き通ったライブの歌声をバックにしっとりと新作を見せた。ミューズは18世紀フランスの数学者で物理学者のソフィー・ジェルマン。当時のスタイルから着想を得たワンピースに、マスキュリンなテーラードアイテムを差し込む。大柄のブリティッシュチェックのコートの上にレースを羽織ったり、レースのドレスにケーブルニットを重ねる、あるいはボリュームたっぷりのタータンチェックのドレスといった英国調のアイテムも目を引く。シグネチャーのレースやフリルを多用したドレスも、今回はよりクラシカルなスタイルがベースになっているが、大げさな印象はなくすっきりとまとめられている。

ボラ・アクス(写真=Chris Yates)

 マーク・ファストは無機的なビルのがらんと広い空間で、幻想的な冬の海中をテーマにしたカジュアルなレイアードスタイルを見せた。様々な青を基調に、ミニスカートにサイハイブーツを合わせる若々しいレディスや、クラゲのプリントを散らしたデニムの上下といったメンズといったストリートの装いの中に、グラマーな人魚のようなニットドレスが加わる。このデザイナーが本来得意とする手の込んだニットウェアはデミクチュールライン。昨年末、北京に旗艦店をオープし、年内にアジア太平洋地区に10店の出店を計画している。

マーク・ファスト(写真=Chris Yates)

 マティ・ボヴァンも海がテーマ。海の持つ神秘的かつパワフルで荒々しい世界を、ダイナミックなクラフトワークで表現した。コレクションは、海中で生命が誕生する様子をハンドメイドの巨大なスパンコールをネットに編み込んだ、服というよりも物体のようなアイテムからスタートし、嵐の波の下にいるそのキャラクターが海面に現れ、より現実的な服となる様子を、ジャカードニットやプリント地のパッチワークを多用した粗削りなスタイルで服に投影した。映像では、その様子をフューチャリスティックに見せた。もともと非現実的とも思われるデザインを差し込む型破りな作風のデザイナーだが、リサイクル素材を多用したよりサステイナブル(持続可能)な物作りを追求してか、アート作品のような要素が強まっている。一点一点手仕事で丁寧に作られた退廃的なレディスおよびメンズウェア。

マティ・ボヴァン

 昨年春のロックダウン以降新作発表を休止していたリアム・ホッジスが、アップサイクルを基本としたカプセルコレクションで戻ってきた。キー素材はブルーデニムとビンテージTシャツで、単なるパッチワークではなく、工業用プリントやレーザー技術を駆使してメッセージ性の強い一着に仕上げている。Tシャツはシャーリングを施してタイトフィットなトップになり、ジーンズの脇には「NORMAL IS DANGEROUS!」の文字がダメージ加工で浮かび上がる。コラージュを使った1分間の映像で、従来の価値観から脱した循環型の新しいコレクションの誕生を表現した。

リアム・ホッジス


この記事に関連する記事