ロンドン・ファッションウィーク・ジュン2020 前に進もうとするデザイナーの熱量

2020/06/18 11:00 更新


 初のデジタル形式での発表となったロンドン・ファッションウィーク・ジュン2020(LFW June 2020)を見て感じたのは、とにかく新たにスタートを切るんだというデザイナーたちの強い意志だ。2カ月以上にわたるロックダウンを経て、今、再開できることは何かを模索したデジタルコンテンツが揃った。

(小笠原拓郎)

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 例年の6月のロンドン・メンズコレクションのように、21年春夏コレクションをきっちりと提案したブランドは少ない。その中で、DIYによるサステイナブル(持続可能)な物作りなど、地球環境を意識した再出発をするデザイナーが目立つ。注目の「チャールズ・ジェフリー・ラバーボーイ」はライブイベントの一方で、LFWの自身のページで「(セルフ)ポートレート・オブ・ア・ラバーボーイ」という21年プレスプリングコレクションをルックブックで発表した。ラバーボーイらしいジェンダーレスで、エキセントリックな色柄を組み合わせたカジュアルなスタイルが揃う。グラフィカルなプリントのジャージードレスやセットアップ、オーバーサイズのフーディーとハーフパンツのバランスが楽しい。コロナ禍でのファッションアイテムの一つとしてマスクもプリントするなど、コーディネートアイテムに取り入れている。

ルックブックで発表した「チャールズ・ジェフリー・ラバーボーイ」のプレコレクション
「チャールズ・ジェフリー・ラバーボーイ」の「UKブラック・プライド」への寄付集めを目的としたライブイベント

 コレクションで面白かったのは、「ティスカ・エスパダス」だ。ただ単純に服を何ルックか着て見せただけだが、その分、シンプルに服のイメージを感じることができた。9月に販売するコレクションで特にシーズンは明記していない。マタドールからイメージした服と自身のオリジンでもあるスペインのバックボーンが重なり合う。

 数年前から、ローカライゼーションの復権を強く意識してきた。というのも、これだけグローバリズムが進んで世界が均一化していくと、地域による特性を改めて新鮮に感じるからだ。均一化されていないものの価値観が改めて見直される。そんなことを思い出させるコレクション。それは「闘牛」という、もはや死滅してしまおうとしている文化を背景にしている。そのマタドールルックをどこかキッチュにしたような雰囲気が楽しい。ただ、服のクオリティーは、やはり画像だけではつかめない。

ティスカ・エスパダス

 今回のLFWでは、デジタル形式で服の美しさをどれくらい実感できるのかが一つの焦点であった。それがどこまでできたのか。新作を見せたブランドが限られることもあって、その答えを出すのは尚早といえるのかもしれない。ただ、リアルのファッションショーで感じるようなデザイナーのエモーショナルな熱量はデジタルであっても感じられた。

 今、できることから進んでトライアルしていく。それをベースに見せ方も服の力が伝わるようにより進化させていく。とにかくその一歩を記したい。そんな思いを感じたファッションウィークだったように思う。

クリストファー・レイバーン「レイファウンド」

デザインしないクリエイション

 LFWのスケジュール枠ではインスタライブによるディラン・ジョーンズ『GQ』編集長との対談でファッションの未来を探り、新プロジェクトのコンセプトを紹介したクリストファー・レイバーンは、ロンドン・ファッションウィーク(LFW)の自身のページでそのプロジェクトの商品を公開した。

 「RAEBURN」(レイバーン)同様にAとEがくっついた合字になった「RAEFOUND」(レイファウンド)で、軍用アパレルのデッドストックを手を入れることなくそのまま販売するもの。11年前のデビュー当初から、パラシュート素材などデッドストックの軍用生地や古着を使ったコレクションを発表し、ロンドンメンズのサステイナブルシーンをけん引して来たレイバーンが今回挑んだのは、キュレーションというデザインしないクリエイションというわけだ。

 英国、フランス、オーストリア、オランダから探し出したジャケットやパンツ、帽子、手袋、バッグは迷彩柄が中心で、QRコードをスキャンするとどこの国のものか分かるようになっている。言われなければ新たにデザインした服だと思う洗練されたフォルムや凝ったディテールが特徴で、大量生産が基本の軍物とあって、XSから3Xまで6、7サイズが揃う。発表当日の6月13日からブランドのECサイトで販売している。

レイファウンド

(若月美奈通信員)

デジタルでLFW June 2020に参加した「GR8」の久保光博GR8888社長

ロンドンを応援したい気持ちがありました

久保光博社長

 コロナ後で通常のファッションウィークができないことにより、デジタルプラットフォームとしてファッションウィークを行うというところで、単純にロンドンを応援したい気持ちがありました。また今後、コロナ後の時代の変換期における初のデジタルファッションウィークに参加することに意義を感じました。参加することにより経験できること、次世代の感覚を学べると思ったのも強かった。

 日本のセレクトショップとして、GR8がロンドン・ファッションウィーク(LFW)に参加できる店ということのアプローチにもなり、今回の参加で周りからの反響も後で自分の糧になると思ったこともきっかけになりました。

 GR8として3本ムービーを制作しました。1本目はGR8のスタッフがそれぞれ考えたイギリスデザイナーを軸にしたスタイリング。実際のスタッフの映像と、インスタグラムのエフェクトを使用したスタッフを混ぜ合わせて、今の東京の若者や雰囲気を通してGR8というストアを紹介するムービーを作りました。

 2本目は日本画家の東園基昭さんに、彼が好きなデザイナー、チャール・ズジェフリーを彼のライフワークを通して語るイメージムービーを制作しました。GR8というストアの存在をロンドンにアピールできるムービーにしたかった部分があり、日本の歴史や文化と自分たちが考えるロンドンデザイナーとのつながりをもとに、日本とイギリスの融合を表現しました。

 3本目には、ロンドンで生まれたラッパーのTohjiくんを起用。若い世代に圧倒的な人気がある彼の目線を通してロンドンとイギリスのデザイナーに対する思いを表現してもらいました。彼の思うように撮ってほしかったので完全に自主制作してもらいました。

 ファッションショーは一つのコミュニティー、町内会だと感じています。お世話になっているデザイナー、バイヤー、エディターに会えない、会話ができないのはやはり寂しさを感じるし、デメリットと感じます。メリットはデジタルになったことで、世界のどこからでも参加できる、情報が入手できる、シェアできることだと思います。

 コロナにより2カ月実店舗を閉めましたが、ECはコロナの影響もあって、前年比400%増になりました。GR8にとって実店舗は重要ですが、今後コロナの影響でいかにECのビジネスも広げていくかも重要視しています。ECをどう盛り上げていくかというところで、お世話になっているブランドやメーカーと何か新しい企画を考え自分たちのコンテンツを制作し、消費者に発信していくことが今後のビジネスにとって重要になっていくと感じています。

 今取り扱っているブランドとのコミュニケーションをさらに密にし、よりプロダクトや物作りに対する背景やストーリーを大事にし、それを消費者に伝えるコンテンツをGR8として考え、発信していく。ポジティブな強い気持ちを持ってマーケットに向かっていくことで、消費者にその熱い思いを伝えていけばこの困難も乗り越えられると信じています。熱量は、デジタルでもアナログでも人々には伝わると思います。



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