岡山の夏を代表する「うらじゃ」は、最大50万人の観客を動員する市民参加型の踊り祭り。古代吉備の鬼神・温羅(うら)をモチーフに、踊り手は顔に温羅化粧を施し、衣装をまとって市内各所を舞台に演舞します。94年の始まりから掲げるスローガンは「共生と融和」。ハイライトである「総踊り」では、観客も一緒に踊ることで地域の連帯を育んでいます。30回の節目となった今夏、「うらじゃコレクション」が初めて開催されました。従来は演舞が主役でしたが、今回のコレクションは装いとメイクに光を当て、観客と審査員が双方の視点から踊り手を称える新企画です。私も審査員を務め、うらじゃを再考しながら新たな気づきを得る機会となりました。
【関連記事】結婚式件数が20年で4割減 岡山で進む「祝祭を日常へ」《プラグマガジン編集長のローカルトライブ!》
視覚の言葉
当日は特設会場に18組の踊り連が登場。各踊り連の30秒プレゼンで衣装とメイクのテーマを確認してから、審査に臨みました。遠くからでも目を引く象徴性に加え、至近で際立つ素材感やニュアンス、装飾や配色といったディテール。各踊り連の趣向が凝らされ、個性が鮮やかに表れていたように思います。

審査は、審査員が選ぶ「温羅賞」と観客投票による「桃太郎賞」の2部門構成。前者は愛媛県からゲスト参加の松山よさこい風舞人、後者はIPU・環太平洋大学ダンス部&IPU・スポーツアカデミーに決まりました。

審査をして印象的だったのは、会場にいる観客の意識が自然と〝装いを読み解く〟モードへ切り替わったことです。演舞の熱気に「理解する楽しみ」が重なり、鑑賞体験に厚みが増したように感じました。
フランスの思想家ロラン・バルトは『モードの体系』の中で、ファッションを「言語に似た記号体系」と分析しています。衣装や装飾は単なる視覚効果ではなく、社会や文化の記号として働くもの。つまり色や素材、シルエットは「視覚の言葉」といえるでしょう。
これまで、うらじゃの衣装やメイクは、言語化されず〝なんとなく〟受け止められてきたきらいがあります。しかし、意図を語らずとも私たちの心をつかんできました。うらじゃのファッションはその歴史と熱を支えてきた原動力の一つです。
私は今回のコレクションで、「ファッションには力がある」ことを再確認しました。審査に参加した観客が、今まであいまいだった感覚を言葉へ置き換える体験をしたことにより、その力はいっそう確かなものになるはずです。
作り手への視線
岡山県は、学生服やデニムに代表される繊維産業の集積地です。踊り手の足元を支える足袋も、岡山が日本3大産地の一つとして知られています。ファッションに関わる物作りの営みが続く地域だからこそ、衣装を顕彰する機会が生まれたことには意味があると感じました。
今後この企画が続いていく中で、制作背景の紹介、職人・服飾系学生との協働、地場産業の素材活用など次の動きにつながっていくかもしれません。そして、観客の視線が装いの背後にいる〝作り手〟へと伸びていく期待もしています。次の夏、私たちはどんな温羅の装束を見られるでしょうか。ぜひ岡山に来て、ご覧いただければうれしいです。
