イギリス人DJの友人から”友達がジャパニーズチキンの専門店をオープンさせるんだ!本当に美味しいよ。”と、聞いたのが、確かまだ残暑の残る昨年9月だった。コロナ禍で閉店してしまう店舗も多い中、新店舗オープンの情報もチラホラ入ってくるベルリン。そんな中、から揚げ専門店「Tsu Tsu(ツツ)」は、今年2月にクロイツベルク地区にオープンした。近隣の川沿いには人気レストランやバーが立ち並ぶ飲食激戦区でもある。
まず、気になったのは、「Tsu Tsu(ツツ)」というユニークな店名。オーナーの高崎和人さんに聞いたところ、ベルリンのZ世代がSNSやメッセージを送る際に、スマイルマークのかわりに”ツ”とカタカタを使用するのが流行ってるらしく、そこからヒントを得て誕生したという。いわゆるギャル用語のようなものらしいが、覚えやすいだけでなくインパクトもあるところが良い。
肝心のメニューは、メインのから揚げが、6個、9個、12個から選べるようになっており、おにぎりなどとのセットメニューもある。サイドメニューには、枝豆、フライドポテト、ポテトサラダ、キムチがあり、アルコール類もビールだけでなく、レモンサワーや日本酒もあり、ちょっとした居酒屋気分を味わえる。当然ながら、ヴィーガン用のから揚げ(大豆ミートを使用)も用意されている。
から揚げは、一口食べて、フワッとした食感と食べたことのない味付けに驚いた。久しぶりにこんなにジューシーで柔らかくて、いくつでも食べれてしまいそうなほど美味しいから揚げと出会った。大袈裟でなく、本当に感動するレベルで美味しい。わさびマヨ、タルタル、チリ系のスパイシーソースの3種類から好きなソースを選べるようになっていて、どのソースとも相性が良いこともおすすめポイント。
「Tsu Tsu」は、オープン初日から大盛況で、店先に人集りができ、警察が来てしまったほどだったという。私たちが来店した時も前を通る人の多くが、”何屋さん?”と言った顔で覗き込み、外で食べていた私たちの方を振り返って確認する人がとても多かった。クロイツベルクは、アーティストやフリーランスのクリエイターが多く住むエリアでもあり、新しいものが大好きなベルリナーからあっという間に注目されるだろうと思った。個性の強い個人店が近隣に多いのも納得である。
オーナーの高崎さんは、もともと音楽関係の仕事をしており、その後、不動産の会社を立ち上げ、交友関係も広い。オープンからベルリン在住のDJ陣が多数お祝いに駆け付けているのもそういった理由からだ。
ベルリンには、ケバブ、ピザ、カリーヴルスト(ソーセージ)、バーガー、中華、ベトナムなどをはじめとする、カウンターのみで主にテイクアウトというスタイルの”インビス”と呼ばれるファーストフード店が異様に多い。ロックダウンで店内での飲食が禁止されている今、安くて、早くて、気軽なファーストフード店の需要はさらに高まっていると言える。”ケバブの立ち食い”はベルリンの定番風景として知られているが、大人の女性が店先でピザを”早食い”している姿を見るのはあまり良い気分ではない。
その点、から揚げはかぶり付く必要のないサイズで食べやすく、小腹が空いた時やスナック感覚でいつでも食べることができる。コロナ禍におけるアイデア勝負はまだまだ始まったばかりであり、今後も独創的で味も美味しい店舗がオープンすることを期待している。
長野県生まれ。文化服装学院ファッションビジネス科卒業。
セレクトショップのプレス、ブランドディレクターなどを経たのち、フリーランスとしてPR事業をスタートさせる。ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積みながら、ライターとしても執筆活動を開始する。ヨーロッパのフェスやローカルカルチャーの取材を行うなど海外へと活動の幅を広げ、2014年には東京からベルリンへと拠点を移す。現在、多くの媒体にて連載を持ち、ベルリンをはじめとするヨーロッパ各地の現地情報を伝えている。主な媒体に、Qetic、VOGUE、men’sFUDGE、繊研新聞、WWD Beautyなどがある。