【ものづくり最前線】生産増えるかりゆしウエアの沖縄の縫製業 持続可能な産地へ「通年の技術力」向上へ 販路開拓や人材育成で成果

2014/05/08 14:25 更新


 沖縄県の縫製業は「かりゆしウエア」の県内需要に支えられている。この間、クールビズによる夏のオフィスの軽装の象徴的な存在として生産数量を伸ばしてきた。09年に26万枚台まで落ち込んだものの、13年には43万枚超まで回復した。今後、かりゆしウエアを全国へ販路拡大するとともに、県外のOEM(相手先ブランドによる生産)事業の獲得を目標としている。そのため、沖縄県など行政からの支援を受け、長期的な視野に立ち、縫製技術の向上に磨きをかける。

 かりゆしウエアには現在、19工場、10ブランドあり、約600人が生産に携わっている。一部を除きほとんどが数十人単位の小規模な工場だ。

 今年4月に3年目を迎える「縫製業新展開事業」では、3カ年の目標で、①かりゆしウエアの認知活動による縫製ビレッジ(集積地)イメージの醸成②県外縫製工場の誘致、OEM生産体制に必要なノウハウ取得、改善活動を進める。同時に県内で自社ブランドへの技術反映による女性や若い男性層の獲得③県外技術研修や各専門家を招いての指導によって、布帛シャツ縫製2級技能士の複数人の誕生。これらの目標を達成するためのステップとして、かりゆしウエアの自社ブランドを持つ日進商会、パイプニット、ジュネの3社は今年1月に東京で開かれたファッションの総合展示会JFWインターナショナル・ファッション・フェア(IFF)に出展した。

 県外のOEMを受注するには、縫製技術の向上が最大の課題となる。現在はかりゆしウエアを生産する沖縄県の縫製工場ではロック縫いが中心だ。ロック縫いはTシャツなどカットソーアイテムを中心にカジュアルウエアで用いられることが多い。ドレスシャツなどに採用される巻き伏せ本縫いで生産するのは日進商会など一部の工場に限られる。

 また、かりゆしウエアと違って県外向けの布帛シャツなどを生産する場合、秋冬向けに長袖が不可欠となる。その際、カフスや剣ポロなどの仕様を作り上げる必要があり、半袖よりも工程が増える。

 県外からの縫製技術の指導には、前回の支援事業で数年前から福島県白河市のドレスシャツ工場、リオ・ビアンコの斎藤武夫社長をはじめ、熟練職人が沖縄を訪れて直接指導をしている。一方、この4~5年で沖縄から福島のリオ・ビアンコの工場へ延べ50人ほどを研修のために派遣した。

 支援事業を担当する海邦総研の比嘉明彦事業支援部主任研究員は「沖縄の縫製業にとって、着用期間が限られたかりゆしウエアを生産していない閑散期をOEMで埋めることができれば、年間で安定的な工場の稼働が可能になる。そうすることで、地元の雇用の拡大や工場の設備投資にもつながる」とみている。

 沖縄県の別の支援事業である「縫製技術者人材育成事業」は、昨年までの2年間で25人(初年度女性13人、2年目12人=うち男性2人)のスタッフを県内の工場へ輩出した。ミシンなど縫製設備を整えた研修所を開設し、縫製の素人でも工業用ミシンの研修が受けられるようにした。アタッチメントを使い、巻き伏せ本縫いもできるようになる。「縫製の経験者よりも先入観や癖がない分、若くて新しいことを受け入れやすいので工場の要望にも合う」という。沖縄の工場は小規模なため、新人に教育する余裕がないところがほとんど。研修所での人材育成事業を活用することで即戦力として採用できるとともに、スタッフの若返りにもつながるなどメリットは大きい。今年4月からも十数人が研修を受けている。

 2年前には福島県の縫製業が沖縄に工場を開設した。念願だった県外OEMの受注も始まった。

 技術指導で信頼関係のあったリオ・ビアンコは、12年11月に現地のジュネと業務提携し、同社の製造部門を譲渡してもらい、沖縄工場とした。場所はジュネの自社社屋の1フロアを借り、ミシンなど設備や8人の縫製スタッフはリオ・ビアンコ沖縄が引き継いだ。13年1月には沖縄県による縫製の研修所で技術を習得した5人を加えた。現在は増員して23人となった。工場の稼働から1年が経ち、ジュネのかりゆしウエアやハワイアンシャツ「パイカジ」に加え、目標にしていた県外のOEMに対応するまでとなった。「福島に比べれば、技術7割、スピード5割というレベル」(斎藤社長)。OEMではメーカーズシャツ鎌倉のドレスシャツを中心に月1000~1500枚を生産する。2~3年後の目標は、県外OEMのドレスシャツで月2000~2500枚。かりゆしウエア含めて合計で月5000枚、年6万枚を想定している。また、業務提携したジュネは初めて巻き伏せ本縫いを取り入れたドレスシャツの販売を徐々に広げている。

ResourceView (1)
技術を習得した人を現地の縫製工場に輩出する研修所

《記者メモ》

 沖縄の縫製業はかりゆしウエアが県内だけで40万枚以上の需要があるため、これまで販路拡大や技術向上への意欲が低かった。しかし、ここ数年、沖縄県衣類縫製品工業組合の幹部企業を中心に巻き伏せ本縫いの技術を意欲的に取り入れだし、少しずつではあるが、縫製技術のレベルが上がってきている。

 沖縄の縫製業にとって大きな課題である閑散期対策や人材育成も行政の支援を受けながら、目標に向かって前進を続ける。一つずつ課題を克服していくことで全体の底上げも図れればメード・イン・ジャパンの新たな担い手にもなりうるのではないか。(大竹清臣)

《チェックポイント》

 「かりゆしウエア」は、沖縄の自然や文化などのモチーフをプリントした生地を現地の企業が縫製したシャツだけに認証のタグが付けられる。沖縄県衣類縫製品工業組合が商標登録している。

 ある程度の規模のある縫製工場は自社ブランドを持ち、県内の小売店を中心に卸販売もしている。那覇市内などに直営店をもっているところもある。最近では東京など県外の百貨店でも夏の時期に催事や紳士服売り場のスポットで販売している。ロック縫いがほとんどだが、一部のブランドでは巻き伏せ本縫いも採用されている。縫製する際、プリントの柄物なので柄合わせなどには細心の注意を図っている。

 かりゆしウエアは縫製技術を高め、柄の感性に磨きをかければ、沖縄にとどまらず、ハワイアンシャツのように南国のリゾートウエアとして世界のマーケットで勝負できるポテンシャルを秘めている。

ResourceView (2)
研修所で若い世代に縫製技術を指導する

 

 

(2014/05/08付繊研新聞)



この記事に関連する記事

このカテゴリーでよく読まれている記事