「日本の生活にも、なんとなくシックリと馴染むような…」ーーそんなテイストが魅力の北欧デザイン。家具や食器、またファッションやコスメなど、さまざまな分野にわたり、私たちの生活の中に自然に溶け込んでいるように思う。
思えばつい北欧と称してしまいがちなため、「エリアが曖昧になっているのでは?」と、今一度ネット検索してみたところ...
「ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、バルト三国、ブリテン諸島、アイスランドを北欧諸国と表記される」とのことだ。
というわけで今回のCINEMATIC JOURNEYの向かう先は北欧諸国✈スウェーデンへ✈✈
❝スウェーデンで国民の5人に1人が見た、史上3位の記録的大ヒット映画❞ というコピーにきっと心動かされる方も多かろう「幸せなひとりぼっち」。
先日、脚本も手掛けたハンネス・ホルム監督が来日し、直撃インタビューをする機会を得た。そこで、その内容をシェアする前に、まずは本作のあらすじを簡単に――
愛妻に先立たれ、43年勤務した会社も突然解雇。
歳を重ねるごとに気難しさを増し、周囲との溝も深まるばかり。
規律に厳しい、元自治会長歴もある、ひとりぼっちの59歳、オーヴェ。
遂に彼は妻の元へと旅立つことを決意する。
と、その瞬間、予想外の事態が発生!?
全く異なるタイプの新隣人が出現したのだ...
といった、なんともスパイスの効いた笑いが、味わい深さを増すストーリー。だからこそ、世代も超え、さらには国境も超え、多くの観客のハートを鷲づかみしたのかもしれない。
そんなヒット作の生み親ことホルム監督は主人公同様、スウェーデン生まれの50代。それでは早速、監督のコメントの数々をシェアいたしましょう!
❝映画にとって衣装はすごく重要なんです!
ひと目見ただけで、その作った時代がすぐわかってしまいますから。もちろん時代劇はまた別の話ですけどもね(笑)。本作は、それほど時代に配慮しなくても構わないとはいえ、主人公のオーヴェがそれなりに歳を重ねている。だからといって古く見えても良くないし…と言う意味でも、すごく難しかったですね。
ちなみにオーヴェの衣装は、ごく普通の服という設定なんですが、実のところ、特徴のある衣装を探すのは簡単で、それとは反対に、ごく普通の服をみつけるのは至難の技なんです。
たかだかブルーのジャケット1枚をみつけるのに、なんと数カ月もかかって、「やっと!」といった感じでしたね。だからごく普通の服で、色のイメージが、きちんとあったものを探すのは、なかなか大変なことなんですよ。
参考までに、「オーヴェが自殺するというのに、なぜドレスアップするのか?」というのは、亡き妻ソーニャと会うためなので、きちんと着飾っているというわけなんです
さて、物語の進展につれ、いまなおオーヴェはどれほど妻を愛しているかが伝わってくる。加えて彼の心模様の変化も色が物語っているかのような…そんな思いがよぎる。そこで早速監督に尋ねてみると――
❝最初に申し上げておきたいのですが、実は私、色盲なんです!珍しい監督でして...❞
一瞬、返す言葉が見つからない私ではあったが、当然のことながら、それとこれとは別問題!
作品全体で、色にまつわるアプローチというのは考えられています。基本の色はブルー。そこに妻、ソーニャが関わることにより、また物語がエンディングに向かうにつれ、一つの色だったのが、だんだんと多彩になってくるわけです。
ですので、衣装と撮影のスタッフと一緒に、色のアプローチについてはよく話し合いましたね。基本的には冷たい色彩から、だんだんと暖かい色彩に向かっていく、という構成です
作品を鑑賞されれば「同感!」されると思うのだが、ソーニャのカラフルな北欧ファッションが、なんとも気分を上げてくれるわけでして...。
❝色のことに気づいてくれてウレシイ❞
と、語られた監督の言葉に私もウレシクなった☺ そして締めくくりの言葉もまた、クリエイター魂を実感した。
当然のことながら、観客は映画を見ている訳で、作られた世界ってわかっているのです。デザイン全般から、衣装から、全てにおいて。それをいかに自然なものとして信じさせるか、受け入れさせるか。それゆえ全体で一つのハーモニーを奏で、視覚的に機能していないと、観客には信じてもらえないのです。そうした全てを限られた予算内に収めるため、いろいろなところで工夫はしています(笑)
ここで、少しばかり寄り道的話題「シネマに登場のタフなヒロイン」について...
前述の作品に登場する主人公の亡き妻ソーニャ。彼女は事故で大けがを負い、車いす生活になりながらも決してくじけることなく、また持ち前の明るさを失うことなく、教師としてのキャリアを積んでいく。
同様に、周囲からの逆境にめげることなく、愛と信念を持って患者と向き合った実在の女医を描いた『ニーゼと光のアトリエ』。そのヒロイン、ニーゼの気高き生き様にも感銘を受けた。
また、今春公開になり、当コラムでも紹介した、北欧ブランド「マリメッコ」の創業者を描いた映画『ファブリックの女王』。そのヒロインこと、マイヤ・イソラの雄姿にも。
ちなみに、記事にも掲載した『マリメッコ展』がいよいよBunkamuraザ・ミュージアムで12月17日から来年2月12日まで開催に!
ここで再び、スウェーデンにスポットライトを当ててみたく。思えば今年、世界的に有名なミュージシャン、ボブ・ディランが受賞し、話題を集めたノーベル賞の創設の国でもある。そんなお国柄を反映し、さまざまな発想豊かなアイデアが誕生している。
前述の監督と、時を同じくして来日した3人のデザインユニット「Claesson Koivisto Rune」(クラーソン・コイヴィスト・ルーネ)もまたスウェーデン、ストックホルムを拠点に、世界的に活躍している。「より美しく、より機能的でなければならない」と自らのスタイル哲学を語る彼ら。
新たなチャレンジとなったのは、デザインとサイエンスに着目したプロダクトを創造する、日本の医療機器ブランド「&MEDICAL」のマッサージ機「soft stone」。
その名の通り、柔らかな丸みを帯びた小石のような2種類のプロダクトは、オブジェのように部屋の中に置いておきたいと思わせる「nice&friendly」なデザインとなっている。
うさみ・ひろこ 東京人。音楽、アート、ファッション好きな少女がやがてFMラジオ(J-wave等)番組制作で長年の経験を積む。同時に有名メゾンのイベント、雑誌、書籍、キャセイパシフィック航空web「香港スタイル」での連載等を経て、「Tokyo Perspective」(英中語)他でライフスタイル系編集執筆を中心に活動中