2016年の初めに、久々のニューアルバムの発表と69歳のお誕生日を迎えた直後、その輝ける人生のステージを地球から次なる惑星へ…と、旅立った一人の偉大なるアーティスト。David Bowie
昨年、久々に訪れたロンドンで、偶然にも彼と縁のあるホテルに滞在したことを思い出した。
「HOTEL CAFÉ ROYAL」。ここはかつて奇知に富んだ彼の多彩なアーティスト活動の中で、かの「ジギー・スターダスト」としてのフィナーレを飾ったパーティーの場だったとか。
そんなストーリーを知るや否や、華やかなコスチュームに身を包んだセレブリティ―たちが集う、キラキラとした空想の世界にひたりきってしまった。
さて、David Bowieを語る時(マニアックなファンに比べたらベビーのような存在の私だが)、彼の才能と活躍の場の広さに感動する。それは音楽であり、映画の世界であり、そしてまた山本寛斎による個性豊かなステージ衣装をはじめ、アートにも近いファッションセンスの高さ!
そのごく一部を2012年にPaul Smith SPACE GALLERYで開催された写真展で目にする機会があった。本展は40年にわたり彼の写真を撮り続けてきた写真家、鋤田正義の写真集「BOWIE×SUKITA Speed of Life」の出版記念にあたり、Paul SmithもまたDavidとは親しい間柄にあったから実現したそうだ。
その際、本展用に限定発売されたTシャツ(写真上)は、ラジオ番組制作時にやっと入手した、Bowieがカメオ出演した映画『クリスチーネ・F』のサントラ(ドイツ語で歌う楽曲が収録されている)と共に、私の大切なDBコレクションの一つとなっている。
そして時は流れ2016年2月。まさに前述のアルバム「ジギー・スターダスト」に収録されている楽曲「スターマン」が、火星に独りぼっちで取り残された主人公マーク・ワトニー(マット・デイモン)と絶妙なタイミングでコラボする映画が日本での公開の日を迎えた。
『オデッセイ』。音楽ファンならずとも映像、音楽、そしてストーリーが三位一体となって織りなす本作の魅力に、「どんな時もあきらめないココロの強さ」を胸に刻むこととなるだろう。
限りある時間だからこそ、誰もみな大切にしなくてはならないコト、そのためにすべきコトが多々ある。そして逆境と思える状況さえも楽しんでしまうユーモアの精神。その心意気を、きっとマークから学ぶはず。
さて、そんな過酷すぎる状況下でも任務を遂行するマークを筆頭に、彼のチームでもあるメインキャストたちの腕で時を刻むタイムピースもまた、タフなプロフェッショナルとしての役目を演じている。
それらはいずれも、60年以上にわたり450作品以上のハリウッド映画に登場してきた「ハミルトン」のコレクションと知る。
思えば、以前当コラムで紹介したことのある『インターステラ―』の主人公(元宇宙飛行士)も同ブランドのタイムピースと共に、スクリーンに登場していた。
ここで、舞台を宇宙から地球へと移し、今回のキーワードにもなっている音楽とファッションにフォーカスしたニューシネマコレクションの一部をシェア!
とりわけ「ビックリ」な、あの俳優たちの歌声を目と耳で味わえる…
1本目は『クーパー家の晩餐会』。それぞれにヒミツを抱えながらも集うクリスマスイブの一幕を、ユーモアを交えつつホットに描いた本作。そのキャストたちの音楽的才能は、監督の予想をはるかに超えていたそうだ。
その気になる顔ぶれとは?
まずクーパー夫妻役のジョン・グッドマンとダイアン・キートンは、共に歌の才能に定評がある。また妻の父親役のアラン・アーキンは、元フォークミュージシャン。ウクレレでどんな曲でも弾きこなせるという。
そして夫妻の息子を演じるエド・ヘルムズはピアノ、ギター、バンジョーが達者。その元妻役のアレックス・ボースタインも習いたてのチェロを披露する、といった具合。まさに音楽一家の共演だ。
次いで、ファッションに関して個別質問したところ、下記のような回答を得られた。
美術監督と、衣装デザイナーの2人が、繰り返し使われる色の方向性が維持されるよう、インテリアと衣装の全体を統一しました。
まず全体のコンセプトを<スノードーム>としたことで、たくさんのガラス窓を作り、世界がかき乱されていると同時に落ち着いてもいる…そうしたイメージを表現したく、『ガラスを通して世界を見ている』ように設計したのです。色彩についてもこのコンセプトに合わせています。
そして、ストーリーがクリスマスの晩餐会ですので、『あえて赤や緑の衣装を着せないことで、なるべく典型的なクリスマスの家族のイメージを避けよう』と。
たとえば、冬の雪景色の青と、壁の灰色がかかっている青をセットデザインとして作り、ダイアンの衣装にも使用しました。さらに、ダイアンとマリサ・トメイが演じる姉妹は仲が良くないのですが、小さい頃に同じ服を着ていたという経験から、大人になっても無意識に同じような服を着るというクセも演出してみたのです
ということで、そのこだわりの続きは劇場で!
続いて向かったのはフランス。
1944年、76歳でカーネギー・ホールの舞台に立ったという、実在の歌姫をモデルに誕生したオペラチック・シネマ『偉大なるマルグリット』。
優雅な男爵夫人マルグリットの、いわばマダムライフの趣味としての歌唱レッスン&サロン音楽会かと思いきや、なんと本気。
俗に「音痴」というカテゴリーに分類されてしまいがちな歌唱力なのだが、当の本人はお取り巻きの本音を知る由もなく…
彼女の純真さの中に見え隠れする切なさに気づく時、観る者のココロも重なりあっていく。
そんなヒロインを、あたかも本人ではないかと見間違えるほど情感たっぷりに演じるのは、フランス映画界を代表するカトリーヌ・フロ。
つい先日(現地、2月8日)、パリに在駐する約50ヶ国を代表するジャーナリスト約200人によって選ばれるフランスの映画賞「リュミエール賞」にて見事、主演女優賞を手にした彼女(写真上)。その受賞コメントに、彼女の思いの全てが物語られているかのよう。その一部をここにご紹介したく!
「この賞は私にとって、そしてこの役、マルグリットにとって重要なものです。もちろん作品にとってもそうですが、特にマルグリットにとってです。まるで彼女自身が実際に賞を得たように感じました。こんなことを(演じた)役に感じるのは稀なことです」
なお、1920年代のアール・デコやアヴァンギャルドなどに彩られたフランスが舞台の作品だけに、彼女がまとう繊細な刺繍が施されたドレスやアクセサリーもまた、ひときわ輝きを放っている。
音楽も、映画も、そしてもちろんファッションも、人々のキモチを豊かにしてくれる、そんな特別な効力があると信じている。
うさみ・ひろこ 東京人。音楽、アート、ファッション好きな少女がやがてFMラジオ(J-wave等)番組制作で長年の経験を積む。同時に有名メゾンのイベント、雑誌、書籍、キャセイパシフィック航空web「香港スタイル」での連載等を経て、「Tokyo Perspective」(英中語)他でライフスタイル系編集執筆を中心に活動中