モードと映画、その愛しき関係(宇佐美浩子)

2015/10/13 13:38 更新


ブランド設立40周年を迎えたアニエスベー。初のフルラインナップブティック「アニエスベー Rue du Jour」が銀座にオープン、また魅力的なキャンペーンも開催するなど、アニバーサリー・モード満開だ。


 


そしていよいよ今月末、アニエス・トゥルブレという本名で監督デビューを飾った話題作『わたしの名前は...』が日本でも公開になる。

アニエスベー・ファンならご存じの通り、アートや音楽への造詣が深い上、シネフィル(「映画そのものをこよなく愛す」という意)としても知られる彼女。

1997年には自身の映画製作会社「ラブ・ストリームス・アニエスベー・プロダクションズ」を設立。デヴィッド・リンチ監督の『マルホランド・ドライブ』や、クエンティン・タランティーノ監督の『パルプ・フィクション』など数々の映画で衣装デザインを手がけるほか、映画祭や劇場公開時の作品サポートなど、さまざまなカタチで長年、映画への愛と情熱をささげていることは有名な話。


 

 

というわけで早速、気になる作品に関する予習をちらりと。

実は脚本もアニエス監督によるもので、10年以上前に読んだ新聞記事に着想を得、わずか数日で書き上げたのだそう。そしてさらに撮影、美術も手掛け、まさしくマルチタレントぶりを存分に発揮している。

 さて、そのストーリーだが――

舞台はフランス・ボルドー地方付近。「誰にも秘密」の悩みを抱えたヒロインこと12歳の少女セリーヌが学校の遠足途中、偶然目にした駐車中のトラックに乗り込む。スコットランド人の運転手にとっては、まさしく寝耳に水な、突如始まる逃避行。

一見、フシギなコンビによるロードムービーは、フランス語と英語の壁を乗り越え、いつしか通い合う心の交流が、観る者の胸をも熱くする…

 ちなみに、スタッフ陣もアニエスベーならではのネットワークによる編成。

友人らによるパーソナルなユニットで行われた撮影、こだわりの音楽にはフランスのエレクトロポップ・デュオ、エール(Air)のジャン=ブノワ・ダンケルが参加するなど、多彩な顔ぶれが集結。

また主演の運転手役を現代美術家として活躍するダグラス・ゴードンが好演。

さらに本作で音楽とドローイングを担当したジュリアン・ランゲンドルフ。その作品をプリントした限定品(トートバッグとTシャツ)にも心魅かれる。

 

 
わたしの名前は...』 
10月31日より渋谷アップリンク、角川シネマ有楽町ほか全国順次公開。
ⒸLove streams agnès b. Productions


次なるシネマは、世代もキャリアも異なる3人の女優の競演、永遠の輝きを放つブランド「シャネル」、その両者が奏でる極上のハーモニー『アクトレス ~女たちの舞台~』


  


物語は、大女優のマリア(ジュリエット・ビノシュ)と、彼女が最も信頼を寄せる若手マネージャー(クリステン・スチュワート)、そして新進女優(クロエ・グレース・モレッツ)の3人が軸となり展開する。

マリアの出世作となったリメイク版への出演依頼を巡り、予期せぬ内容に心惑うマリア。彼女が決意を固める過程を見つめる私たち観客もまた、それぞれの現実と真摯に向き合い、思いを馳せるのでは?

 

 

 

参考までに;

フランス映画界で独自の地位を確立する本作監督、オリヴィエ・アサイヤス。氏が映画作家としてデビューを飾った「ランデヴー」の主演女優が、実はジュリエットだった。

そんな出会いから「過ぎゆく時間」を経て、4度目のコラボ作となる本作は、どこか二人が歩んできた道程とも重なり合うような…

 

 


さて、冒頭に記したシャネルと本作のハーモニー。

それは授賞式シーンのヒロインのドレスやジュエリーをはじめとするさまざまな「特別協力」なのだが、とりわけ本作資料に明記されていた下記の一文には感銘を受けた。 

デジタルではなく35ミリでの撮影を熱望したアサイヤス監督のために、不足した製作費の一部を援助している 

過去に数度、当シネマ記事シリーズにも紹介したことのあるシャネル・ネクサス・ホールでの展覧会しかり。芸術を愛し、支援したブランドの創業者、ガブリエル シャネルの精神が、本作にもしっかりと受け継がれているのである。

 

アクトレス ~女たちの舞台~』 

10月24日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次公開。

Ⓒ2014 CG CINÉMA – PALLAS FILM – CAB PRODUCTIONS – VORTEX SUTRA – ARTE France Cinéma – ZDF/ARTE – ORANGE STUDIO – RTS RADIO TELEVISION SUISSE – SRG SSR

今回のフィナーレを飾るのは、ロマンティックなこちら、『アデライン、100年目の恋』。

 

 

 

これからお伝えするストーリーに、思わず「うらやましい~」と口にする女性も多々おいでになるかもしれない。というのも主人公アデラインは、とある事故をきっかけに「永遠の29歳」を生きる運命になってしまった。たとえ娘が老い、周囲の様相が変化しても、彼女の外見的エイジングは止まってしまったのだから・・・

 そこで、問われるのが

100歳を超えても変わらない見た目年齢の若さが、果たして本当に幸せか否か?

 ヒロインを演じるブレイク・ライヴリーの美しさと絶妙なスタイリングゆえ、この大人のおとぎ話に対する憧れが優先されがちではある。

だが物語が進むにつれ、誰しもみな平等に悩みを抱えることになるものなのだと実感。加えて、しばしば私自身も体験するのだが、想いもよらない運命の巡り会わせの不思議にも遭遇する。果たして彼女に、心の丈を口にするチャンスは訪れるのだろうか??

 

 

 

さて、優雅でエレガントなスタイルを好む、1908年生まれの29歳女子、1世紀にわたるファッション史もまた本作を「観る」楽しみの一つと言える。

各時代を象徴する彼女が装う50余りワードローブの数々。中でも近年になるにつれて登場する衣装の多くが「GUCCI」のコレクションなのだと知り、リピート観賞したくなってしまう。

ちなみに本ページ冒頭にご紹介した、1940年と2014年の2回登場するボルドーのベルベットに黒いビーズの刺繍を施したプチ・セクシーなドレス。

こちらは2014年に発表したGUCCIのクルーズコレクションで発表された、ひざ下丈のドレスからインスピレーションを得て作られた、衣装デザイナーであるアンガス・ストラシーのオリジナルとのこと。

あとはぜひスクリーンにて☆

 

 
『アデライン、100年目の恋』 
10月17日より、新宿ピカデリーほか全国公開。
© 2015 LAKESHORE ENTERTAINMENT GROUP LLC,  KIMMEL DISTRIBUTION, LLC AND LIONS GATE FILMS INC. All Rights Reserved



うさみ・ひろこ 東京人。音楽、アート、ファッション好きな少女がやがてFMラジオ(J-wave等)番組制作で長年の経験を積む。同時に有名メゾンのイベント、雑誌、書籍、キャセイパシフィック航空web「香港スタイル」での連載等を経て、「Tokyo Perspective」(英中語)他でライフスタイル系編集執筆を中心に活動中



この記事に関連する記事