フランスで最も旬な役者、ギヨーム・ガリエンヌが語る!(宇佐美浩子)

2014/09/22 13:45 更新


前回ご紹介したフランスで最も権威ある映画賞ことセザール賞の2014年度主要5部門を制覇した映画「不機嫌なママにメルシィ!」。

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文中にてサラリと予告した通り、その監督、脚本、主演を務め、今や「フランス1」といっても過言ではない、舞台や映画で大活躍のギヨーム・ガリエンヌさんを今回ゲストとしてお迎えし、インタビューに答えてくださることになった。それでは早速! 


 


 Q. ギヨームさんにとっての「笑い」とは? 「笑い」に国籍の差はあると思う?

G. 感動的な作品であるとか、笑いであるとか、そういうことに関して、僕自身は国による違いを全く感じていないんだ。例えば、街を歩いていて誰かが転んだら、面白いかもしれないし、悲劇的かもしれないよね。要は、コメディとかはリズムの問題。表裏一体で存在すると思っているんだ。時に、「ナイーブさ」っていうところから、笑いがきたりとかね。ちなみに僕の監督デビュー作「不機嫌なママにメルシィ!」では、ギヨームが全て受け身でウケちゃうところが、笑いになっているんだよね。

Q. 本作に対するママの観想は?

G. 「より感動的だったのは映画の方ね。とっても笑ったわよ」って。撮影の時からラッシュを見せていて、毎回すごく笑ってくれてたね。このユーモアっていうのは、僕の中にもあるけれど、彼女の中にもあるユーモアで。ユーモアって、通じ合っているんだよね。思い返せば、子供の頃から母親っていうのは、結構イライラしたりとか、表面的にはキツかったりしても、そこには彼女の慎み深さっていうのがあったっていうのを知っていたので、彼女に対する共感っていうのは、小さい時から感じていた。

Q. 日本語のタイトルはいかが?

G. とても面白いと思うよ。邦題の方が、ママと息子の関係性というのをより一層、演出しているし。

Q. ママから衣装などのレンタルは?

G. 宝石は全て彼女の私物で、他にも家具とか絵画とか、たくさん貸してくれたよ。参考までに、ポスター(メインビジュアル)でママが着けているペンダントは、あのセザール賞のセザールのなんだよ。ここでちょっとした秘話をひとつ紹介すると・・・実は以前、母が僕の妻にプレゼントしてくれた青いドレスがあって、ゲイのクラブへ行くシーン用に妻から「ひょっとして、アレ、着てみたら?」って言われて、「ちょっと着てみてようかな」って思ったんだ。で、妻にジップをあげてもらいながら、「ここだけの話だよ」って言ってたんだけど、案の定ママに気づかれて…

「まさか、あなたと私が同じサイズじゃないはずよ!」って。で、悔し紛れに、「もしかしたら、お直しして大きくしていたかもしれないわね?」って(笑)。でも、実は撮影当時、僕は今よりスリムだったから同じサイズだったんだよね(爆笑)。

Q. ユーモアあふれるシーンに登場したダイアン・クルーガーの起用は?

G. 彼女が演じたインゲボルグという女性は、すごく美しくないといけないという設定だったんだ。なぜなら主人公のギヨームがごく純真に、「きっと素晴らしいマッサージをしてくれるんだろうな~」っていう期待感的な部分を演出するにはね。加えて、観客のみなさんがすごく美しい女優(女性)を初めて目にしたら、「なんて美しい女優(女性)がいるんだ」っていう受け身性。そこにギヨームの美しい女性に圧倒されているという、受け身性が交差するという点で。ちなみに彼女とはかなり前からの知りあいで、プライベートでもすごく愉快なんだ。だから心得上手に演じてくれるだろうなって分かっていたし。またバレーを学んでいたから、ものすごく身体表現が正確で、とても精度が高い動き方をしてくれる。さらにドイツ人の女性らしく、「しなやかに」というよりは、結構パワフル(笑)。そういうところがダイアン・クルーガーを起用した理由ですね。


 
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Q. 女性を演じるという点で、歌舞伎に関心は?

G. 「オンナガタ(女形)」のこと? 歌舞伎ではないけれど、コメディ・フランセーズの舞台で、「ルクレツィア・ボルジア」(Lucrèce Borgia)とうヴィクトル・ユーゴー(Victor Hugo)の作品で女性を演じているし、「ギヨームのボーナス」っていう寸劇でも、女の人を何回も演じているけれど、女役とか男役とか、自分の中ではあまり区別がないんだ。たとえば映画「イヴ・サンローラン」で、ピエール・ベルジェ(Pierre Berge)を演じる時というのは、僕自身が母親を演じる時よりも、とても大変だったという記憶があるね。つまり僕にとって母親というのは、すごくよく知っている訳だから、演じるのも簡単なことなんだけれども、ピエール・ベルジェを演じるというのは、男と男でありながら、ずっとかけ離れた存在を演じるという意味で。あと、演じるというのは、身体の動きの問題。全ては内側から湧き出るものだから。

Q. 思い描く自身の役者像は?

G. ゴールなんて考えない。ゴールは「死」だから。いかに道を歩んでいくかという、「どういう道のりか?」というのを考えているんだ。「ハナ(花)」。世阿弥の「花」。自身の舞台で「能」を演じたことはないし、それは無理な話だけども。能そのものよりも、世阿弥の著書「風姿花伝」(花伝書)とかに記されている、「役者というのは、どういう風に段階を経て、役者になっていくか」。そういう話にとても興味があるんだ。

――「不機嫌なママにメルシィ!」ではなく、「ご機嫌なギヨームさんにメルシィ!」そんな思いをスクリーンで今一度!


 




うさみ・ひろこ 東京人。音楽、アート、ファッション好きな少女がやがてFMラジオ(J-wave等)番組制作で長年の経験を積む。同時に有名メゾンのイベント、雑誌、書籍、キャセイパシフィック航空web「香港スタイル」での連載等を経て、「Tokyo Perspective」(英中語)他でライフスタイル系編集執筆を中心に活動中



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