「ココロにも『美味+(プラス)』」をテーマに巡っている9月の「CINEMATIC JOURNEY」。その2に当たる今回は、ココロのみならず、「目にも美味」なシネマの話題からスタート。
国内外の多くの人々から愛され、生涯のほぼ全てを自身の職務に捧げ、このほど天に召されたエリザベス女王。本紙並びに電子版でも紹介した女王初の長編ドキュメンタリー映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』が、追悼上映中だ。
ユーモアの感覚がすばらしく、ファッションに対する独自のスタイルもチャーミングな女王。まばゆいばかりの宝石に彩られた、ヘビー級重量に違いない王冠に対し、「首が折れそう!」なんていう茶目っ気たっぷりのコメントもまた女王ならでは!
そんな英国王室御用達の宝石ブランド、「ベントレー&スキナー」のダイヤモンドとパールのティアラを筆頭に、オリジナルの輝きをスクリーンに放つ結婚式のシーンなど、「ココロにも『美味+』」を観客にギフトしてくれる『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』が、いよいよ日本でも公開に。
通称「ダウントニアン」こと、「ザ・英国貴族の館」にて展開するストーリーにココロ奪われたファンが世界規模で増加し、遂には映画版も登場した際、当コラムでも紹介した。
つづく第二弾となる本作もまた、食事ばかりかティータイムにも着替える、英国貴族式(?)優雅なライフスタイルに基づくスタイリングがココロのみならず「目にも『美味+』」!
衣装デザインを手掛けるアンナ・メアリー・スコット・ロビンスいわく(下記コメントは本作資料より)「第2作目で本当にやりたかったのは、衣装デザインを1920年代末へと前進させること」。
そしてまたさらに筆者が興味を抱いたのは、フランスの夜会でコーラが来ていた「スペシャル」ないわくつきドレス。
「フォルトゥーニ(=「フォルチュニ」とも称す)という伝説的なテキスタイルハウスと仕事をすることができて、あのイブニングガウンのためのベルベットのプリントを依頼したの」
なぜなら、亡き谷口ジロー先生がエスパス・ルイ・ヴィトン・ヴェネツィアで展覧会を開催した際、取材のご縁をいただき、一緒に訪れた思い出深い美術館が、まさにその「フォルチュニ美術館」だったから。
本作資料を拝読しながら、あの日、館内を案内下さった際に目や耳にした「マリアノ・フォルチュニは、舞台美術や照明、衣装、写真など、才能あふれる総合芸術家」だという記憶がよみがえった。
そしてもちろん本作の衣装デザイン担当のアンナもまた総合芸術家と称したいほど、時代背景を含め、キャラクター作りなど、細部にわたり研究を重ね、時には納得がいく色合いになるまで布を染め続けたという。そんな色彩に関するこだわりや妥協も許さず、作品をより一層魅惑的に演出する人物なのだと思っている。
2022年9月30日(金)公開
配給:東宝東和
ここで少しばかり、「過去から500年先の未来へと思いをはせてみたく」みたく思う。
10月16日まで、東京・南青山にあるアニエスベー ギャラリー ブティックにて開催中の日仏のアーティストデュオ「K-NARF&SHOKO」による「PLASTÉONTOLOGY EXPEDITION Episode 3: “The message” An Extra-Ordinary exhibition」は、現実と空想が美味にマリアージュされたSFフォトグラフィープロジェクトだ。
そのきっかけとなったのは、彼らが科学探査スクーター船「タラ号」の乗組員との出会いと聞く。
本展の核となる内容を簡単に説明すると…
新しい科学「PLASTÉONTOLOGY/プラステオントロジー(古生物学+プラスチック)」を発案した二人が、地中海の真ん中にあるメノルカ島でラボラトリーキャンプを設置し、古プラスチック学者としてExtra-Ordinaryな空想の研究旅行へと向かい、その「研究発表の場」的感覚かと。
ちなみに、このほど筆者も当学会入会テストに合格し、晴れてメンバーに!
それでは再び、「ココロにも『美味+(プラス)』」をテーマに巡っている9月の「CINEMATIC JOURNEY」その2に当たる今回。そのフィナーレを飾るべく、今回は二人の少女に森へと向かいます。
「本作では正確な時間は定められていません。2021年の子供だけではなくて、50年代や70年代、80年代に子供だった人にもこの映画に自己投影してほしいと思っています。だから、数十年にわたる世代の人々に共通の時間感覚を持ってもらえるよう目指しました。」
とは、本作宣伝担当者よりシェア願ったセリーヌ・シアマ監督のコメントの一部。よって、スクリーンに登場する祖母、母、娘の三世代同様、観る者も同一の時間と空間を思い思いに見つめ、味わうことができるはず。
どことなくノスタルジック感が香る映像から、そのカギを握るであろう衣装については、次のようなプロセスを踏んだそう。
「脚本を書いている段階から、早々に考えていました。1950年代から現代までのクラス写真を吟味して、各世代から2020年までの子供たちが着ている服の共通点を探したのです。
こうして衣装を考えていくことによって、それまで亡霊のように付きまとわれていた、家の現在と過去の違いについても取り除くことができました。」
映像美を誇るシアマ監督らしい、「美味+」な余韻が忘れられない1作だ。
ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamura ル・シネマほか全国順次ロードショー
ⓒ2021 Lilies Films / France 3 Cinéma
うさみ・ひろこ 東京人。音楽、アート、ファッション好きな少女がやがてFMラジオ(J-wave等)番組制作で長年の経験を積む。同時に有名メゾンのイベント、雑誌、書籍、キャセイパシフィック航空web「香港スタイル」での連載等を経て、「Tokyo Perspective」(英中語)他でライフスタイル系編集執筆を中心に活動中