睡眠の社会的関心が高まるなか、3月18日には世界睡眠医学会(略称WASM、本部・米ミネソタ州ロチェスター)が定めた「世界睡眠デー」を迎える。寝具寝装業界では、眠りの質を高めようと睡眠環境まで踏み込んだ取り組みが活発化。寝具メーカー各社は寝具開発にとどまらず、異業種協業による環境改善の事業や生活者に向けた啓蒙活動まで広げている。睡眠とともに運動や食の分野まで意識した提案もあり、上質な眠りを通じて健康寿命の増進への貢献を目指す。
異業種との協業に力
睡眠は栄養、運動と並ぶ健康作りの3大要素の一つとする認識が一般に定着しつつある。社会意識の変化を背景にメーカー各社は、睡眠環境の改善を意識し、眠りに関わる異業種との協業に力を入れている。
西川産業は昨年2月、「睡眠環境サポートルーム」を日本橋西川にオーブンした。パナソニックのリフォーム事業と協業によるもので、ベッドや枕はもちろんのこと、照明や音楽などの設備で快眠をサポートする。
寝具ではパーソナルフィッティング型のトータルブランド「アンドフリー」を導入しているが、寝具にとどまらず「睡眠のオーダーメイド」を提案し、身体の管理まで踏み込む。パナソニックとの相互送客が集客効果を高める大きなメリットとなっている。そのほか、同社ではスポーツジムのルネッサンスやキリン、味の素などとも協業を広げている。
京都西川は、タニタ食堂の「タニタカフェ」や唐紙ブランド「雲母唐長」(きらからちょう)と協業し、健康情報発信ショップ「コトネムリエ」を立ち上げる。眠りを中心とする京都の文化と健康機器・情報を融合した直営の売り場で、1年以内に百貨店インショップなどでの出店を目指す。
メインターゲットは「健康コンシャスを意識する生活者」。雲母唐長と共同開発した羽毛布団や「ローズテクニー」、「ローズラジカル」などの健康機能商品も揃える。また、タニタの体組成計や睡眠計、書籍、グッズ、タニタカフェのコーヒーなども販売し、専門的な研修を受けたスタッフが測定機器を活用して睡眠指導や生活改善を提案する。
昭和西川は、16年3月にライオン、ワコール、ダイキンなどとプロジェクト「世界睡眠会議」を設立した。睡眠、食事、運動の切り口から、業種や分野の枠を超えた企業との取り組みによって「人々が睡眠の大切さに気づいて、睡眠をケアする新しい健康づくり行動が定着」することを目的とした。
独自のホームページを運営して睡眠を通じた健康作りを発信するほか、調査事業や睡眠をテーマにした宿泊セミナーなどを開催しており。キャンプ場の会場ではヨガなども実践している。
快眠の大切さを発信
睡眠環境の改善は、ネットや民間調査会社などの健康意識調査でも関心のある事柄として、常に上位で選択されるようになった。こうした流れに呼応し、メーカー各社は、店頭やウェブ上で生活者との接点を増やし、眠りの悩みに応えるとともに快眠の大切さを発信する活動を強めている。
西川リビングは眠りの関心や悩みに対し、商品だけでなく販売先のアピールに力を入れている。なかでもオーダー寝具「フィットラボ」を扱う「快眠ひろばの会」は現在141店に広がり、昨年までにオーダー枕で20万個以上を販売する実績を上げるなどで地域に浸透しつつある。
フィットラボ公式サイトの刷新でスマホ対応も可能になり、同会は睡眠の日に合わせて3月1日から2カ月間、店頭でのキャンペーンに取り組み、秋にも実施する。
また、世代別の提案を強め、「眠育」(みんいく)をテーマにベビー寝具「フェリーべ」やキッズ寝具「スーグー」を開発。眠りの学習体験ができるキット「手作りキッズまくら」は、夏休み期間のワークショップをはじめ、店頭イベント企画で実績があり、17年度グッドデザイン賞とキッズデザイン賞の特別賞(審査委員長特別賞)もダブル受賞して評価を高めている。そのほか、シニア向けのポールウォーキング教室など、地域の店舗を拠点にした活動を充実する。
今年、寝具改善運動70周年の節目を迎える京都西川は、ローズテクニーが発売34年のロングラン商品に成長し、健康を支える道具として寝具を進化させた。この間は、寝具販売以外に市民向けのマラソンイベントや公開講座も実施し、健康増強を促している。
さらに、社内横断型で適切な寝具の選び方や使い方を伝える「寝具学」プロジェクトの活動を開始し、百貨店店頭で発信や冊子「1/3」(3分の1)の発刊と大学での講演などに取り組んでいる。今年は睡眠の日に向けて冊子の第2号を発刊するほか、6月展で売り場提案を強める。
西川産業は、コンサルティングまで事業領域を拡大し、科学的根拠に基づいたサービスを提供することで「眠りの新たな価値を創出」する。昨年3月、富士通との共同で開発した睡眠環境解析技術を使って快眠の総合コンサルティングを手がける「ねむりの相談所」を直営店や百貨店、寝具専門店などで順次立ち上げている。
睡眠時の状況が測定できる器具を貸し出して、眠りを「見える化」し、専門知識を持つスタッフが一人ひとりに合った睡眠環境の改善方法や商品をアドバイスする。今後はパジャマやナイティなども快眠商品として強化する。