《ちょうどいいといいな ファッションビジネスの新たな芽》「途中でやめる」 当たり前を疑いながら作る

2025/07/30 11:00 更新


 「安い、速い、低クオリティー」がコンセプトの「途中でやめる」は、山下陽光さんが04年に始めたリメイクのファッションブランドです。一点物が多く、熱狂的なファンが存在します。価格帯はTシャツが2000円からアウターで1万円程度。アパレル産業のシステムや価値観を疑う山下さんは、ビジネスを軸にした活動から距離を置いて運営しています。

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需要があることをやる

 山下さんは「安くて怒る人はいないし、自分も安いものが好き。景気も良くないし、みんな生活が大変で、洋服に何万円もかけられない」という思いで立ち上げました。リサイクルショップやフリーマーケットを巡って、量販ブランドや低価格の古着を仕入れます。解体して、別布を縫い付けたり、毛糸で装飾を縫い付けたり。定規も使わず、即興的でラフに仕上げるデザインとバランスが魅力です。製作は山下さん、事務所のスタッフ1人と、都内近郊や地方の在宅ワーカーが担当。自社ECや事務所での直売、ミュージアムショップ、知人の本屋や服屋などで販売します。

7月はZINEやアートブック、雑貨のフリーマーケット「Hand Saw Press夏のZINE祭り2025」に出店

 「駅前の定食屋とか立ち飲み屋みたいな感じでやりたい」と山下さん。ふらっと入って、つい買っちゃう服屋が理想です。自分のやりたいことではなく、需要があることをやる方がいい。格好良くはなくても、安くて喜ばれて、やっていけている感じが良いそう。売り上げ拡大には欲がなく、現状維持で緩やかに続けていくのがちょうどいいと考えます。自分自身は「調子に乗らない」を心掛けて、利益はスタッフに還元します。

事務所で製作する山下陽光さん

 軌道に乗ったのは10年ほど前です。きっかけはインターネットとの相性が良かったこと。それ以前は、明日イベントをやると決めても集客が難しかったけれど、SNSの普及で可能になりました。自社ECは、新作がすぐに完売するほど人気がありますが、「旗取り合戦のようになっていて、一番やりたくなかったことになっている」と戸惑いもあるそうです。

新作がたまったらスタッフで撮影、SNSで告知、自社ECや事務所などで販売

体も時間も使って販売

 「場所を借りて体も時間も使って販売する方がお客さんとも会えるし、実感があることをたくさんやっていきたい」と山下さん。昨年は、東京・三軒茶屋の生活工房ギャラリーで「山下陽光のおもしろ金儲(もう)け実験室」を開催。途中でやめるの新作をはじめ、野生のわさびにヒントを得た絵画を展示販売するなど、著書『バイトやめる学校』から深化した「おもしろ金儲け」を現在進行形で提案しました。今後は事務所や地方でも直売の機会を増やしたいと言います。

「山下陽光のおもしろ金儲け実験室」は約2カ月半の開催で、お金の稼ぎ方を提案しました

 また、「途中でやめないごまかしリメイク」というリメイク方法を紹介する手芸書を出版しました。手本通りにきれいにつくるよりは、自分なりの服作りをもっと気軽に自由に楽しんでもらいたい思いがあります。途中でやめるは「想像以上に低クオリティー」と山下さんは言いますが、自由な発想で作る服からは、ファッションを好きになった最初の気持ちを感じます。

■ベイビーアイラブユー代表取締役・小澤恵(おざわ・めぐみ)

 デザイナーブランドを国内外で展開するアパレル企業に入社、主に新規事業開発の現場と経営で経験を積み、14年に独立、ベイビーアイラブユーを設立。アパレルブランドのウェブサイトやEC、SNSのコンサルティング、新規事業やイベントの企画立案を行っている。



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