【知・トレンド】《話題を追って》従来のシーズンMD見直し、供給過剰の是正を急ぐ 温暖化や環境意識の高まりに対応 アパレル経営トップ焦眉の課題
総合アパレルメーカーの経営トップが、従来のシーズンMDをはじめとする商慣習の抜本的な見直しを掲げ始めた。商品の供給過剰解消に向けた業界構造の改革が、焦眉(しょうび)の課題として広がっている。温暖化など気候の激しい変動のなかで、市場の需要期とファッションビジネス業界の既存のシーズンMDにギャップが生じている。社会的な広がりをみせるサステイナビリティー(持続可能性)への対応も急がれる。
(北川民夫)
◇90年から高温推移
気候危機とも言われるまでの温暖化がファッション市場を直撃し、シーズンMDの見直しが迫られている。気象庁によると、19年の日本の平均気温の基準値(81~10年の30年平均値)からの偏差はプラス0.92度で、98年の統計開始以降、16年を上回り最も高い値となった。平均気温は変動を繰り返しながら上昇し、特に90年代以降は高温となる年が頻出し、今後も気温の上昇傾向の継続が想定される。
その一方で、業界のシーズンMDに大きな変化はない状況だ。秋冬商戦が8月末から店頭で立ち上がり、10月に入って冬物が〝頭出し〟をして、11月ごろからコートなどの重衣料を本格的に販売する。この商慣習が依然として続いている。
しかし、19~20年秋冬を含めて現実の気候は10月まで〝夏〟と言える高温で推移。さらに11~12月に入っても厳しい冷え込みはまれだった。その後の商戦では、最も寒い1~2月にコートをはじめとする冬物商品を一斉に値下げする。この商慣習が「プロパーが売れない、利益が出ない」業界の構造を生む要因の一つとなっている。三陽商会の中山雅之社長は「実際の気候変化に合わせたMDと、価格競争に陥らない独自の商品企画が不可欠。従来のMD戦略の見直しに向けたトライアル・アンド・エラーが必要だ」と強調する。
◇トレンドに流されず
「シーズンごとの新しいファッショントレンドに沿った商品で需要喚起する、従来のビジネスモデルから進化するべきだ」と提起するのはジュンの佐々木進社長。「ファッションビジネスにおける『毎年買ってください』というコンセプト自体が今やサステイナブルではない」と言い切る。ジュンの中長期的な事業指針は二次流通による〝リセールバリュー〟も含めた、優れた商品価値の追求だ。ワンシーズンで陳腐化しない〝目指すべき女性の姿〟を各ブランドが突き詰めることで「サステイナブルな社会に貢献し、ファッションビジネスの転換にもつながる」と確信している。
「〝癖のある〟ブランドを確立するブランドビルダーとしての施策を重視する」のは、TSIホールディングスの上田谷真一社長。環境問題に対する意識の高まりのなかで、セールを前提に大量生産して、売り減らす仕組みから脱却し、無駄のない製販体制の確立を目指す構え。「原価率の低い商品の〝見せかけの正価〟を、値引きして販売することは通用しなくなる。業界全体のセール期に歩調を合わせたMD施策も変えなければならない」と強調する。秋冬商戦真っただ中で行われる11月末からの「ブラックフライデー」や「サイバーマンデー」の影響を受けない「キャラクターが際立つグローバルニッチなブランドを育成する」ことで、全社的なプロパー販売比率の向上に挑む。
◇未来作る一つの解
「カスタマイズは業界の未来を作る一つの解。大量生産、大量廃棄、供給過剰という課題に対する一つの答えにもなる」とするのはオンワードホールディングスの保元道宣社長。マスカスタマイゼーションを具現化した無在庫のビジネスモデル「カシヤマ・ザ・スマートテーラー」を成長戦略として注力する。デジタル流通が力を増すなか、「体験の場であり、採寸の場であり、コミュニケ―ションの場」として実店舗ならではのライブ感を通じた顧客満足を追求し、新しいビジネスモデルを確立する。
ワールドの上山健二社長は「シェアリングなどミニマルな生活を志向している若い人は増えており、消費者側からも供給過剰是正のシグナルが出ている」と指摘。製販のプラットフォーム(PF)を中心とした〝ロスと無駄を極小化する〟ワールド・ファッション・エコ・システム(WFES)を構築中だ。「資本関係がなくても当社のPFを使っていただくことを呼びかけている。PF活用で供給過剰を是正しながら、ファッション産業が勝ち残っていくようにしていきたい」としている。
サステイナブルへの意識が社会的に高まるなかで、業界として大量廃棄を生む構造から脱却しなければならない。デジタル技術を駆使したパーソナルオーダーや嗜好(しこう)性の高いグローバルニッチなニーズに応える製販の仕組み作りが、アパレル産業復活の必須条件になる。
(繊研新聞本紙20年1月27日付)