《連載 ファッション小売りの未来―今、リアルでやるべきこと①》二者択一では終わらない 何を残し何を変えるか 役割を再定義する
7月下旬の夏物セールも一段落した時期、開店までまだ1時間以上あるビームス原宿の前に150人以上の客が並んだ。目当ては英国の3人組バンド「ザ・エックス・エックス」とビームスの協業商品。当日はバンドメンバーも来店し、購入客向けのサイン会も催すとあって、ファンが詰め掛けた。
ネットで仕掛け
欧米だけでなく、日本にもコアなファンが存在するバンドとビームスが協業して作ったのは、サコッシュやキャップ、Tシャツなど、高くても5000円までの商品ばかりだ。それでも、当日は協業商品だけで数百万円を売り上げ、セール後の平日としては破格の客数も記録した。
このイベント、直前にビームスが自社サイトなどで開催を知らせたほか、バンドが出演したラジオ番組で話した程度の告知のみ。その情報がネット経由であっという間に伝わり、ファンが店前に列を成した。ビームス原宿のスタッフは「今は、新商品やイベントの情報は基本的にネットで把握してから来店するというお客様が多い」と話す。
9月中旬、スペインの大手SPA(製造小売業)インディテックスは、渋谷にある「ベルシュカ」の日本1号店をリニューアルした。改装の目玉の一つはガラス張りの建物正面から見える4層のフロアを貫く階段の途中に備え付けた、足を踏み入れると自動でフラッシュが発光し、昼夜問わず店外からそこに立つ客を撮影できるスポットだ。
これまでに日本で25店を出している。進出から6年が経過し、街行く人がスマートフォンで「自撮り」する姿が増えた。買いやすい価格でトレンドファッションが買えるブランドとして、同じインディテックスの「ザラ」より若い客層の支持が厚いベルシュカは、リニューアルする旗艦店には、SNS(交流サイト)世代に向けた仕掛けが不可欠と考えた。前日にはリニューアル記念のレセプションを行い、それが終わった夜の午前零時から日本でのネット販売も開始した。「店で実際に商品を見たお客様がネットで購入する確率は高く、ベルシュカの渋谷店リニューアルはネット販売スタートに絶好のタイミングだった」という。
店舗増は一段落
繊研新聞社の16年度の調査で、回答のあった前年と比較可能なファッション専門店113社の期末店舗数合計は2万2529店だった。前年度の実績に比べると店舗数の増加は152店にとどまった。前年調査では368店増加したことと比べると、ここ数年続いたSCの開業数増加とともに、専門店の出店規模も拡大するという構図が一段落したことをうかがわせる。
ネット販売がファッション分野でも急速に拡大している。繊研新聞社がアンケート調査に基づき、推定した16年度のファッション商品のEC(電子商取引)市場規模は前年より14.5%拡大した。国内ファッション市場に占めるネット販売比率は8.6%となった。今後も2ケタ成長が続けば、17年度には10%に到達する公算も大きい。
ただ服を買うだけなら、もはやネットで済む時代。問題はネットかリアルかの二者択一ではない。両方をうまく結び、活用できない企業は市場から弾き飛ばされるだけだ。だが今後もファッション消費に占める存在感が大きくなっていくであろうECとは違い、長年消費者との接点であり続けた実店舗には、改めて、その意味や役割を再定義する必要が生じてもいる。
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海外SPA、セレクトショップ、個店など、規模やジャンルを問わず、ファッションを売る側が今、ネット主流となりつつある時代の中で、リアルの店の何を残し、何を変えようとしているのか、探る。
(柏木均之)