欧州ラグジュアリー、再値上げは難しい? 信頼と利益の間で悩む

2025/08/19 17:00 更新NEW!


 関税と為替の圧力が続くなか、欧州のラグジュアリーブランドにとって、価格転嫁はもはや自明の選択肢ではなくなっている。コロナ禍後の急速な値上げが消費者の「ラグジュアリー疲れ」を招いたとの指摘もあり、価格をめぐる判断には慎重さが求められている。

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 仏紙『ル・モンド』によれば、各社の間では「もはや再値上げは難しい」との認識が広がっている。マッキンゼーの試算では、19~23年の高級市場の成長の約8割が販売数量の増加ではなく価格上昇によるものだった。またKPMGが関係者を対象に行った最新調査では、「価格上昇が必ずしも価値の上昇と連動してこなかった」と指摘している。

 一方で、収益性の確保は上場企業にとって避けて通れない。同紙によると、価格を上げられないのであれば、次に見直されるのは「原価」であり、ある供給関係者は「素材の質の低下はもはやタブーではなくなっている」と証言している。財務部門が調達担当に対して、原材料や加工時間のコストをより厳しく交渉するよう指示する動きも出ているという。

 こうした現実は、仏皮革産業に不安を広げている。23~24年にかけて、原料や人件費の上昇にもかかわらず、ブランド側が下請け価格の引き上げを渋ったという証言もある。さらに25年に入り、販売の伸び悩みを背景に、発注自体を減らす動きも報告されている。

 価格を据え置いて信頼を守るのか、品質を抑えて利益を確保するのか。どちらを選んでも、ラグジュアリーが築いてきた価値の均衡が揺らぐ。顧客との信頼関係を、どこまで守りきれるのかが、改めて問われている。

(パリ=松井孝予通信員)



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