明るさを取り戻す提案に期待
新型コロナウイルスの終息が見えない中、21年春夏テキスタイル商談では市場の明るさを取り戻す提案が期待されている。在宅志向もしばらく継続するとみられ、リラックス感を重視しながらも薄地や透け感などでエレガント寄りに進化したナチュラル系素材が拡大する。一方で、文化やアートが生活に必要とする社会意識も強まっており、プリントやジャカードなどの意匠表現の広がりが注目される。
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■きれいめの素材感
綿や麻、天然調化合繊をはじめとするナチュラル系素材は、きれいめの素材感が広がる。立体感や表情感のある素材と同時に「しなやかな反発感や光沢感、ソフトな表面効果のあるきれいめの素材」(瀧定名古屋)を打ち出す流れが強まりそうだ。特に、この数シーズン人気が続く麻は「フレンチリネンより節が少なく、目面が繊細なアイリッシュリネン」(柴屋)、「ラミーの160番手やリネンの60番手クラスの透け感素材や薄地素材」(小原屋繊維)などエレガントさを伴った表情が増える。
麻複合では「リラックス感と上品さを融合したレーヨンやポリエステルとの複合」(サンウェル)、「麻のシャリ感を維持しながら梳毛糸で型崩れしにくくしたウール・リネン」(川越政)などで変化を追求する。また、「落ち感と仕立て映えを重視した中肉タイプの麻調ポリエステルやポリエステル・綿・麻」(宇仁繊維)などバリエーションが広がる。
綿でも「艶感のあるオーガニック綿」(スタイレム)や「フランスの綿・リネン・レーヨン・ポリエステルのチェック」(クリスタルクロス)など、きれいめの表現が拡大する。肌触りの良いソフトな風合いの綿・麻や後加工でふんわり柔らかく仕上げたガーゼ、西脇産の強撚の先染めや「高島ちぢみ」などの産地素材も人気が根強い。
ドレープ性のあるシルキー素材も注目され、「繊細で光沢のあるエレガントな表情を実現したスパンシルク」(同興商事)にも関心が集まりそうだ。
■アートや手作り感
来春夏店頭にはこれまでの暗いムードを払拭(ふっしょく)する提案が期待され、先染めやプリントでは明るさが求められる。「ギンガムチェックやグラフィカルなストライプ、モダンな配色のマドラスチェックなどカラフルな先染めで表現を広げる」(スタイレム)、「カラフルなボーダーや奥行きのある色の先染め、鮮やかな色のアニマルや花柄のプリントで新しさを追求する」(クリスタルクロス)という動きが強まる。
プリントでは小付き柄やドット柄、線画タッチのコーディネートしやすい表現とともに、「大理石風やタイダイ風などアート調の柄」(宇仁繊維)、「染料の化学変化による色合いの面白さを表現した、麻のプリントへの抜染」(大松)もある。
意匠素材でも透け感が重視され、レーシーなボーダー柄のジャカードやオーガンディのカットジャカード、ラッセルレース、綿ボイルのプリントやシアー素材のオパール加工などに表現が広がる。手作り感も重要で、希少な織機による綿・キュプラ複合の織物、抜染で抜き方の度合いを変化させてぼかし表現も可能にしたデニムなどで新しさを出す。光沢加工やレザー調加工も組み合わせた近未来的でクールな着こなし提案も目立っている。
また、立体感も注目され、収縮糸や節糸使いの強撚ツイードによるイレギュラーな表情、綿の塩縮加工をはじめ、「サッカー調の凹凸素材」(サンウェル)、「立体的な花柄や水玉柄のラッセル」(リリーレースインターナショナル)などの表現が増えている。
来春夏素材商談は、まだ手探り状態の段階だが、アパレルの関心が高まってきており、購買意欲を刺激する新鮮な表情や質感、インパクトのある意匠提案が求められる。
この連載は阿部拓、橋口侑佳が担当しました
(繊研新聞本紙20年7月3日付)