【話題を追って】 過渡期の百貨店婦人靴市場

2017/12/10 04:29 更新


 百貨店の婦人靴市場が過渡期を迎えている。ボリュームゾーンと言われる、1万円台のNBの消費の落ち込みに歯止めがかからず、東京・浅草の靴産業を支えてきた大手婦人靴卸の3社が、この1年半で事業や株式を第三者に譲渡せざるを得なくなった。急速に進んだ消費の多様化に対応しきれなかったことが背景にある。

(須田渉美)

 繊研新聞社の売り上げ調査を振り返ると、昨年8月に民事再生法を申請したシンエイは13年1月期に前年比4.1%増の128億円を、今年9月に株式を譲渡したオギツは12年12月期に0.4%増の141億円を売り上げていた。卑弥呼も13年3月期は4.3%増の57億7500万円。ここまでは、大手婦人靴問屋が在庫を積んで商品供給する仕組みが健全に進んでいたが、13年以降に市場は大きく変わった。単なるトレンドに終わらない、消費者のライフスタイルの変化が、収益構造を揺るがす要因となった。

 一つが、秋冬の稼ぎ頭だったロングブーツが売れなくなったこと。かつては多くの女性が1足3万~4万円台の商品を購入し、シンエイが輸入卸していたインポートブランドは10万円近くでも売れた時期があった。代わりに、ブーティーやショートブーツの需要が伸びたが、ロングブーツほどの売り上げにはならない。回復の手立てを模索するうちに到来した危機が、スニーカーブームだ。セレクトショップでは、普段着のコーディネートアイテムとして、一足2万円近くの商品が飛ぶように売れ、14年に入ると、百貨店の婦人靴売り場がスニーカーのカテゴリーを導入し始めた。その結果、パンプスの販売が鈍り、一時期はサンダルの消費も低迷。今年に入ってようやく回復してきたが、履き心地の快適なスニーカーは消費者の生活に根づいた。

 婦人靴卸が得意としてきた機能パンプスでは、消費者ニーズを的確に捉える製造小売りブランドが台頭した。その一つ、カタログ通販の「フィットフィット」は、履き心地とデザイン性を両立する機能シューズを中心に実店舗での売り上げも伸ばし、百貨店婦人靴売り場にも進出、現在は50億円規模に成長した。

 履物の選択肢が増え、購入の場が多様化する中、百貨店の婦人靴の平場で埋没し、存在感を発揮しきれなくなったブランドは少なくない。競合が増すなら、消費者に認知してもらえるよう、将来性あるブランドに専念して打ち出しを強める方法もあったはずだ。しかし、売り場のMDが整理されることはなく、3社の売り上げは13年以降、2ケタ減が続き、総額で100億円以上が消滅した。

 婦人靴市場そのものは縮小していない。1万円以下の靴の品質が上がった分、1万円台後半のパンプスを購入する客数が減り、万人受けするブランドが存在しなくなったことが、大手卸の収益の縮小につながった。

 30代を主力層にする「オデット・エ・オディール」は、「おしゃれな靴を履くことへのマインドは変わらない。ただ、必要な物を必要な時に、必要な分だけ買う。自分にどれだけ役に立つかを吟味する」という。パンプスの中心価格は1万7000円。百貨店婦人靴売り場でも安定した売り上げを維持している要因の一つは「ターゲットにとって最適な物作りに集中する」こと。店頭のスタッフとコミュニケーションを密にし、同じグレーでも色味を変えた方が良い、ヒールが5ミリ高い方が良いなど、来店客に「私の趣味に近いと感じてもらえる差別化が大事」という。

 80%近くを国内メーカーに依頼して生産するのは、「ブランドの雰囲気、デザインの細かいニュアンスの違いをくみ取って完成度を高めてもらい、ブランドとして統一感を出す」狙いから。この数年、トレンドのサイクルが長く、同質化しやすい中でも、さじ加減によっては1モデルで1000~2000足を販売するヒット商品もある。定番のバレエシューズは、メーカー側もスムーズな供給ができる協力体制を取っている。

 消費は年々、読みにくくなっている。「売れ筋がバラける傾向にあり、この商品は作り込んだ方がいいという予測が立てにくい」と話すのは、40代に支持されるブランドをライセンス生産するモーダ・クレア。従来にも増して立ち上げ時の在庫を少なくし、「店頭で売れてから作る」ため、日々の生産管理が煩雑になっている。自社工場でもない限り、無駄なく売り上げる供給バランスを保つのは難しい。

 この1、2年、都心型の百貨店では、インポートブランドの売り上げが伸びている。4万円台から5万円台のハイエンド商品に加え、2万円台の商品群も良い。「時代と共に消費者の感度が底上げされ、見え方のきれいなインポート商品を選ぶ客層がマス化してきたのでは」と見るのは、ハーモニープロダクツ。婦人靴売り場では、認知度の高い「ファビオ・ルスコーニ」に限らず、複数ブランドを揃え、16年春から前年を超えて売れている。2万円を超えると価値が見いだしにくいNBよりも、背伸びしてインポートを買う消費者が増えているようだ。

 一方、地方の百貨店ではそうはいかない。パンプスの平均単価が1万円台前半という店がほとんどだ。それでも、きちんとした品質への信頼と期待が百貨店の婦人靴売り場にはある。一言にボリュームゾーンといっても、2万円以上のインポート商品、1万円台後半と1万円台前半のNBとで3層の消費者ニーズを読み、適量を見極めて供給する意識が欠かせない。




この記事に関連する記事

このカテゴリーでよく読まれている記事