「アンリアレイジ」を日常に定着させる「アンシーズン」㊦

2017/10/10 04:25 更新


【軌跡】「アンリアレイジ」を日常に定着させる試み 森永邦彦手掛けるアンシーズン㊦ 「神は細部に宿る」を表現

 「アンシーズン」はこれまで、「アンリアレイジ」と同じ展示会で新作を発表してきた。しかし18年春夏からは時期を早め、プレコレクションの買い付け時期に発表するようになった。プレコレでの買い付けを重視するバイヤーが増えているのが大きな理由だが、時期をずらすことで、アンシーズンにもアンリアレイジと同様にしっかりと時間を費やしたいという思いがある。今までアンリアレイジの「おまけ」のような存在だったというアンシーズンを、別ブランドとして確立させたいとデザイナーの森永邦彦は話す。

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コンセプトの違う2店

 実売重視のプレコレ時期に発表するとは言っても、アンシーズンは売りやすいもの、売れた実績のあるものだけを揃えるブランドではない。アンリアレイジは、「神は細部に宿る」をブランドの理念として持ち続けているが、アンシーズンにもそれは共通している。それゆえに、アンシーズンの中にも、売りやすさやイージーさとは対極のもの作りを感じさせるアイテムもある。

 例えば、アンリアレイジを象徴するディテールであり、アンシーズンでも取り入れているパッチワーク。「単に細かなパーツでパッチワークをすれば、神は細部に宿る、と言えるわけではない。生地をカットしてどれとどれを組み合わせるかという、あらゆる作業に意識を行き渡らせることが重要」だ。アンシーズンのアイテムを含め、パッチワークは、今も創業メンバーの一人がアトリエで製作している。

 「効率良く作ることももちろん重要だとは思う。しかし、効率良く作ることと、簡単に作ることは違う。発想自体が簡単なものでは残っていかないし、そういうものを作りたくはない」

 東京・南青山地域に2店の直営店を構えたことも、アンシーズンとアンリアレイジとをよりしっかり区別する動きにつながった。1店舗目は、表参道駅の近く、「コムデギャルソン」「アンダーカバー」などのショップと同地域にあるパルコの施設、バイパルコ内に16年8月末に出店したショップ。もう1店は、外苑前駅そばの閑静な通りに今夏出店したショップだ。

今夏オープンした外苑前の本店

 海外観光客なども多いバイパルコ内のショップは、ブランド初心者であっても比較的接点を見つけやすいアンシーズンを中心に展開する。突然、ディスプレーのウィンドーが不透明になったり、引き戸をあけると音楽が鳴り始めたりといった森永らしいギミックを盛り込んだ店で、ブランドになじみのない層も引き付ける仕掛けになっている。

 一方で、アトリエと一体になった外苑前のショップは、駅からやや距離があるため、コアなブランドファンが集う場所。コレクションで見せるアンリアレイジの世界や服の一点一点を、じっくり吟味できるような空間だ。

 通常、同地域内での複数出店はご法度だが、2店展開を生かし、いかに相乗効果を生むかを考えた結果、この形に落ち着いたという。

「アンシーズン」を揃える青山店


今までにない服の形

 「アンシーズンができたことで、アンリアレイジではもっともっと攻めたいと思うようになった」と森永。もちろん、アンシーズンができる前もアンリアレイジでは1回ごとのショーに懸けていたが、「時間をかけて日常化できる可能性をアンシーズンで得たことが、作り手にとっても生産者にとっても希望になる」。

 同時に、ショーで発表したことを、アンシーズンを通して日常化させることが自身の責任だとも森永は感じている。アンリアレイジのショーでは、紫外線で色が変わるフォトクロミック、カメラのフラッシュなどを当てると色が浮き上がる再帰性反射といった、通常はファッション分野に用いられることはない技術を頻繁に取り入れている。3Dプリンターなど、他産業も注目する最新技術も用いてきた。

 そうした技術を取り上げるからには、それが消費者の生活にしっかり落とし込まれるところまでやり続けないと、上滑りで無責任になってしまう、という思いがアンシーズンの根本にある。

 アンシーズンを立ち上げたことで、服がデザイナーの想像を超えて、様々な人に様々な着こなしとして受け入れられていくことの価値に気付いた。そこから発展させる形で、今練っている企画もある。9月中旬をめどにブランドサイトをリニューアルするのに合わせ、アンシーズンを象徴する球体シャツを人から人に手渡し、そのログをサイトに掲載するのだという。

 どこで誰がどのように着たのかという記録をGPS(全地球測位システム)なども使って追い、服が人をつなぎ、コミュニティーを作り出す様を記録していくのだという。

 対極的な立ち位置にあるアンリアレイジとアンシーズン。それらを組み合わせることで、今後も「今までにない洋服のあり方を試していきたい」と話す。

引き続き、他産業との協業にも積極的だ(今の「BMW」との協業イベントから)


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