【トップインタビュー】タカラ 米倉将斗社長

2018/09/27 06:00 更新


 タカラはファクトリー(縫製工場)として9月、創業70年を迎えた。そこにはモノづくりに欠かせない感性・技術を継続して磨き上げ、企業価値を高めてきた姿を色濃く映し出している。次なる大きな目標は「ファクトリーとして100年企業への挑戦」。タクトを振るのは3代目の米倉将斗社長だ。

技術と感性がコアコンピタンス

――業界が厳しい中で70周年を迎えることができた要因は

 国内縫製を取り巻く環境は非常に厳しいものがあります。その中で9月に70周年を迎えることができたのは、得意先様はじめ業界の皆様の温かいご支援のおかげだと考えています。

同時にそうしたご支援を頂けた要因は、当社が創業時より大切にしてきた「技術」と「感性」に基づくものづくりの精神を経営の基本に据え、その精度を上げてきたことだと考えています。

「技術」と「感性」こそが当社のコアコンピタンスであり、今後もこの精度を上げることが当社にとっての基本です。

国内とともに海外を見据えて

――アパレル市場の厳しさの中で100周年に向けて考えておられることは

 国内のアパレル市場は縮小傾向かもしれませんが、世界に目を向けると2015年に146兆円だったアパレル市場は、2025年には300兆円を超え、ますます拡大していくと予測されています。

だからこそ、国内ビジネスにより一層磨きをかけるとともに世界とやり取りする準備を徐々に進め、新たな事業の可能性を探っていきたいと考えています。

 ありがたいことに、海外の高級メゾンから高い評価を受ける機会が増えています。というのも、パリコレに出展される芸術性の高い服を手がけさせて頂いたり、

海外で活躍されている方々とのご縁から人的ネットワークが広がり、ヨーロッパの一流のメーカーやデザイナーに当社の良さを肌で感じてもらう場が増えているためです。

技術レベルだけでなく、ファクトリーが、日本の「小豆島」という小さな島にあることも大いに興味を引くようです。こうした関係をいかした取り組みを進めたい。

自然・歴史・文化あふれる小豆島のメイン工場

――海外との取り組みの位置づけは

 今はまだ海外と仕事を始めるような段階ではないですし、これまで同様に国内でお世話になっている得意先様とのお仕事を第一に考えていきます。

しかしタカラの技術を必要とする声が海外にもあるのなら、学ぶという意味でも挑戦することは必要です。それが技術、感性を磨き高め、国内のお仕事にも役立つと確信しています。

まずは興味を持ってもらえる仕掛けづくりを進め、当社の技術力の高さを知ってもらうことから始めていきたい。ヨーロッパでは縫製技術が次第に低下してきていると言いますから、いずれ向こうから声をかけていただけるチャンスが必ず巡ってくる。日本のテキスタイルが世界で絶賛され、海外のデザイナーたちがこぞって使っていることを考えれば、

縫製産業にとってもチャンスは十分にあるのではないでしょうか。

新たな研究部門設立と人材育成がカギ

――具体的な取り組みは

そのための準備として必要になるのが、これまで培ってきた感性や技術を生かした「技術研究サンプル」の製作です。

タカラとして70年積み重ねてきた技術や、価値が感じられるものでなくてはなりませんが、これができると得意先様から頂く仕事のクオリティの底上げにも繋がると考えています。

具体的には、タカラに早くから技術の研究室があったように、製品としての付加価値を高めるための研究部門、仮称ですが「ファッションラボ」を新たに作りたいと考えています。

技術研究のためのサンプルづくりから、海外も含めた交渉、縫製技術のプレゼンテーション、情報発信基地などの役割を持たせ、この場所を次代のプラットフォームとして機能するように広げていきたい。当社は、海外のネットワークの広がりで、流行前の情報収集などが出来るようになりました。社内には世界の一級品を手掛ける匠たちが数多くいます。

この情報収集能力と匠の力を合わせることが出来る場がファッションラボです。

本社は利便性もある岡山に

――人材教育のありかたも変わるのですか

 この新しい試みを進めていくにあたり、単に研究だけを任せるのではなく、丸縫いのできる高い技術を持った社員を中心に、状況に応じてハイブリッドに活躍してもらうことを望んでいます。

つまり、技術と感性の高いサンプルや製品づくりを通して活躍してもらうだけでなく、社外の人との交渉やクリエイションなどの分野でも活躍できるようになることが大切だと考えています。

外の世界に接することで、自分たちが身につけた技術の価値の高さをあらためて実感することができる上、タカラを知らなかったメーカーやデザイナーに技術の高さを認めてもらうことができれば、モチベーションアップにもつながります。日本人が持つ優れたクリエイションとイマジネーション。

自分たちの価値がそこにあることを知ってもらえる仕組みを、この「ファッションラボ(仮称)」を通して作り上げていきたいと思います。

 そのための人材教育として、3本柱である「文化」「教養」「感性」の中でも、特に「教養」の要素に力を入れていく考えです。また、海外でファッションを勉強した人、留学経験のある人、語学力や交渉力のある人などを積極的に採用していくことも必要です。

 世界全体でのアパレル産業の市場拡大を見据え、準備段階に入ったタカラ。これから着実に進化を進め、100周年の時には、世界から「日本にタカラあり」と言ってもらえる会社づくりを目指していきます。


「トップオブピラミッド」狙って70年

株式会社タカラ取締役会長 米倉勝久氏

 縫製業を生業とし、一生の仕事としていく以上は、人間の感性と技術、伝統と文化を集約したものづくりを実践したいと考えていました。

日本の民族性や文化水準の高さを生かした本物のものづくりを追求したい。だからこそ「トップオブピラミッド」を狙う。婦人既製服へと転換を図ったときから、これを目標にしてきました。

トップオブピラミッド、すなわち高付加価値をもつトップブランドの製品づくりを戦略として実践してきました。 

 転換点が創業50年のとき、「ルネサンスアゲイン」を打ち出し、イタリアのモデリスト養成機関「カルロ・セコリ」と提携したことです。セコリのミリ単位の精度にこだわった技術は、当社の技術と感性の発展に大きく寄与し、今日のタカラの礎の一つとなったと思っています。同時に単に技術的な向上だけでなく、人間が持つ本質的な芸術性をどう引き出すのか、そうした力をどう引き上げるのかも企業として考え実践してきました。

 モノづくりの「モノ」とは、「もの思いにふける」の「もの」と同じだと思っています。「づくり」とは、思いを実現させることで、そう考えると「モノづくり」とは人間性にもかかわる非常に奥深いものだと考えています。モノづくりの力を高めるということは、人間性そのものを高めること。だからこそ、70年間、技術だけでなく、感性や教養を柱として教育を実践し、それが当社の競争力の根源になっていると考えます。そしてこのことの正しさを確信したのが、最近あるラグジュアリーブランドの創業者の「労働者の尊厳を損なわない仕事の形」を大切にするという考え方でした。その企業は自然にあふれた環境に拠点があるわけですが、それだけでなく劇場を作るなど感性や教養を重視し、従業員の幸せを常に追求し続けています。

当社も小豆島という自然と歴史、文化のある場所で創業し、技術だけでなく教養や感性教育を柱にして来たことは全く同じ発想だと強く共感しました。

 今後も新しい体制の下で、従業員の人間としての成長や幸せの追求と会社の発展を重ね合わせるという考え方を基本に、新たな挑戦で100年企業へと前進したいと考えています。


評価は先輩たちの積み重ね


CAD室チーフ(香川県技能検定委員・技能検定パターンメーキング1級保持)

大串さえ子さん

 今年で社歴は31年を数えます。縫製部からスタートしましたが、2年目後半からパターン関連のCAD室に異動し、それ以降パターンメーキング一筋です。縫製の専門教育も受けずに入社し、

パターンメーキングの知識や技術をはじめとして今日の私があるのは、タカラと先輩の方々に育ててもらったからといっても過言ではありません。とりわけ、私を指導してくださった技術をもっている先輩方は、その技術を自分だけのものとせずオープンにされた。それだけではなく、プラスアルファで先輩自身が開発したものまで教えてもらった。それはおそらくタカラの歴史そのもので、社風になっていると思います。

得意先からタカラの製品について評価をいただいているのも、代々の先輩たちからの積み重ねがあるからこそです。

 パターンメーキングを担当し最優先に取り組んでいるのは、得意先のニーズは何なのかを理解することです。そのうえで、製品をニーズに合った顔に仕上げるにはどうすればいいかに思いを巡らしています。

パターンメーキングを仕事とする以上、ミリ単位の追求は当たり前でそれも先輩から教わりました。今後は先輩たちと同じように、若い世代に知識や技術を伝承するとともに、私自身は今の仕事をより深く追求したい。


profile
1974年生まれ、香川県出身。
大学卒業後、企業に勤め、立命館大学大学院MBA卒業。
2009年 (株)タカラ入社、2015年 (株)タカラ社長、現在に至る。

http://www.takaragroup.co.jp/

(繊研新聞本紙9月21日付け)





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