旭化成の繊維事業が業績好調だ。03年にいったん分社化し、ポリエステル繊維の撤退など事業構造改革を実行。苦難の時期を乗り越え、差別化された四つの素材事業で再び成長軌道に乗っている。キュプラ繊維「ベンベルグ」の民族衣装やファッション、ナイロン66繊維「レオナ」のエアバッグなど、マーケットはグローバルに広がる。16年には旭化成本体と再び統合、「コネクト」をテーマに事業領域を超えたシナジーを追求する。
中計最終年、営業利益160億円に
―繊維事業のここまでの歩みは。
レーヨン、アクリル繊維の撤退を経て03年に繊維事業を分社化しましたが、分社化以降の歩みを振り返ってもしばらくは厳しい時期が続きました。08年のリーマンショック後はポリエステルの撤収を余儀なくされ、11年の東日本大震災では国内の景気も大きなダメージを受けました。
震災後の厳しい時期にいったん身を縮め、「素材の力を信じよう」と、「ベンベルグ」、「レオナ」、スパンデックス「ロイカ」、不織布と、差別性の高い四つの事業に絞って展開してきました。それからの4年は残った事業で収益を伸ばし、15年度には営業利益137億円、営業利益率10%を上回る業績を達成して自信もついてきました。
一方、16~17年度はやや踊り場に入っており、15年度に対して下振れしていますが、現在実行中の3カ年中期経営計画「シーズ・フォー・トゥモロー2018」の最終年度である18年度は、営業利益160億円の目標達成が視野に入っています。タイのポリプロピレンスパンボンドの2号機や「ロイカ」の増設なども効いてくる見込みです。
社内外と「コネクト」し、新用途を開発
――今後の成長をどう描いているか。
現中計の次は、25年のあるべき姿を見据えた上で、19~21年度の3カ年中計に落とし込む計画です。繊維では19年度上期稼働を目指して「レオナ」の延岡での増設と、マイクロファイバースエード「ラムース」の3号機設置を決定していますが、タイのスパンボンド3号機なども18年度中に増設を決めたいと思っています。
さらにその先は、「レオナ」や「ラムース」の初めての海外拠点など、海外での拡大を検討していきます。
これら4事業にとどまらず、新しい用途へ広げることもテーマです。現中計で「コネクト」をキーワードに社内外との連携を進めていますが、繊維ではスパンボンドを軸にした不織布事業に期待しています。すでに自動車や建材などで旭化成グループ内で「コネクト」した製品が広がっていますが、これをさまざまな用途で伸ばしていきたい。
自動車では不織布と他素材とを組み合わせて性能を高めた吸音材など新しい用途が期待できます。このほど、他社との共同開発契約を結んだ国産初の腹部大動脈瘤ステントグラフトも、繊維事業でインキュベーションした例です。
今後に期待する分野では、セルロースナノファイバー(CNF)や伸縮電線「ロボ電」があります。CNFは自動車用途等の新素材として注目されていますが、当社のセルロース繊維や樹脂加工の知見を生かし、次の中計でスタートさせます。14年に販売開始した「ロボ電」は18年にはビジネスとして軌道に乗せていきたい。
このほか、当社の強みである素材の力を生かし、展開領域を広げていきたい。例えばエアバッグ事業は、「レオナ」の原糸販売にとどまっていますが、エリアによっては川中まで進めていくことも検討していきます。「ラムース」のカーシートも同様です。
従業員の働きがい向上へ
――時代のテーマにどう向き合うか。
AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)が注目されていますが、低下している製造現場の力をこれらで埋めるのは違うと感じています。ベースには人間の力があり、そこをサポートするのがAIやIoTでしょう。
繊維事業本部の工場現場では50代から30歳前後へとノウハウを伝承することが課題になっています。各工場でプロジェクトを進めていますが、継承の達成度合いを表彰する制度も設け、現場の力を維持、向上する取り組みを行っています。
働き方改革もテーマになっていますが、従業員に働きがいを感じてもらうことが大事だと思います。このため、工場では小集団活動と評価でPDCAを早く、大きく回していく仕組みを作っていますし、昨年9月から「プレミアムかえるデー」として月1回午後3時帰社の取り組みを繊維事業本部の本社で行っています。
単身赴任者が週末に家族と過ごす時間を確保したり、自己啓発を行ったりするなど、それぞれ自由に使ってほしい。「仕事が忙しいのに帰らなければいけない」といった不満も現場ではあるでしょうが、上司と部下が積極的に向き合うことで、働きがいや仕事を見つめ直す機会にしてほしいと思っています。
旭化成株式会社
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