22年春夏パリ・メンズコレクション ネオンカラーやグリッターの光沢で見せる

2021/06/30 06:27 更新


 22年春夏パリ・メンズコレクションは、鮮やかな色が広がった。パンクのイメージのどぎついヘアメイクとともに登場するグリッター、クラブカルチャーを背景にしたネオンカラー。鮮やかなピンクやオレンジがジェンダーの境界をあいまいにする。

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 〈フィジカル〉ダブレットは、東京・三鷹のオーガニック農園でフィジカルのショーを開催した。住宅街の一角にある農園にたどり着くとヤギがお出迎え。ブドウ棚に置かれた収穫かごを椅子替わりにしてショーを待つと、轟音(ごうおん)とともにパンクのメイクのモデルたちが登場する。

ダブレット(写真=加茂ヒロユキ)

 ライダーズベスト、オーバーダイのGジャン、ぎらぎらのグリッターニット、ビッグサイズのパッチワークコート、ストリートイメージのアイテムがずらりと揃う。そこに野菜のモチーフが差し込まれる。キウイフルーツの断面をつなげたクロシェニット、「フルーツオブザルーム」のロゴプリントをパロディーにした野菜プリントTシャツ。井野将之らしいユーモアたっぷりのアイテムだ。バナナを模したイエローセットアップは、バナナの茎からできた糸を編んでベルベットアンダーグラウンドのアルバムジャケットに見立てたもの。どぎついパンクメイクのモデルに交じって、かかしメイクのモデルも登場する。玉ネギの外皮を使ったベジタブルダイのボンバージャケットには玉ネギのハンドペイントをのせた。

 前シーズンからサステイナビリティー(持続可能性)を意識するようになった井野の自然との共存の第2弾といったところであろうか。昨今の環境に配慮したファッション全盛への違和感とともに、それを逆手にとって「環境に良い素材や仕組みの中で作り上げる反抗的なパンクな服。いい子なやり方で作る悪い服」を見せた。井野はファッションデザイナーである以上、サステイナブルばかりがもてはやされる風潮への違和感も隠さない。だから環境に配慮しながら、それだけではない新しさを模索する。春夏は、持続可能な新しい技術を取り入れることで、違う驚きを見せることができたのか。個人的には、スタイルへの驚きはなかったが、デニムをベースにした地厚な生地のパンツの風合いに新鮮さを感じることができた。

ダブレット(写真=加茂ヒロユキ)
ダブレット(写真=加茂ヒロユキ)
ダブレット(写真=加茂ヒロユキ)

(小笠原拓郎、写真=加茂ヒロユキ)

 〈フィジカル〉エルメスのキャットウォークはパリ13区にある仏政府のアンティーク家具保管所の屋外に設営された。雨がぱらついていたため、ゲストは用意されていた黒いポンチョを着て始まりを待つ。そんな姿ですら、なぜかしらほほえましく、懐かしくも思えるのが久しぶりのフィジカルショーだ。しかしながら見覚えのある建物だ。それもそのはず、21年秋冬のデジタルショーの撮影はまさにこの場所。前回の映像は学校の校舎を走り回る学生のような若々しいイメージだったが、その雰囲気は今シーズンにも感じられた。ひときわ目を引いたのは底がスケートボードになったバッグ。スケボー部分もレザーでできており、〝カレ〟ことスカーフの模様が描かれている。ハンドルに付けられた揃いの柄のチャームはセット、またはチャームだけでも店頭に並ぶようだ。スカーフの絵柄は2種類の厚みの違うインクでシャツにプリントされグラフィカルな印象。またシルクのスカーフ素材を使ったスポーツジャケットも登場した。アウターは異素材のコンビが多く、前身頃にナイロンのパネルを配したコートやレザーの切り替えパーカ、リバーシブルのものもあった。エルメスのスペシャリティーであるレザーではカーフレザーやレインディアなどが使われていたが、ジャケットやシャツに使われたクロコダイル柄のスエードのようにも見える素材が気になった。〝シャドー〟と呼ばれるこの素材は、バッグに使われたレザーの残りの層らしくクロコダイルとは思えない非常に柔らかな感覚だった。

(ライター・益井祐)

 〈デジタル〉エルメスのフィジカルのショーをデジタル配信で見て感じたのは、レザーアトリエとしての技術の高さと今の市場を意識したアイテム構成だ。バイアスはぎのスエードシャツ、クロコダイルのブルゾンなど、エルメスらしい上質なレザーをこれ見よがしではなくクリーンでシックに仕立てていく。ブルーやイエロー、ミントといった爽やかな色使いとウエストに巻いたベルトだけで軽やかに主張するセンスがさえる。そして、今の時代を反映してか、かっちりとしたテーラーリングのフォーマルスタイルが全くない。スポーティーで機能的なアイテムを軸に、クリーンなカジュアルに仕上げた。

エルメス

(小笠原拓郎)

 〈デジタル〉ロエベは、ジョナサン・アンダーソンによるコンセプト説明とともに新作を映像で配信した。春夏はクラブカルチャーとジェンダーフルイドがキーワードになっている。クラブカルチャーからイメージした鮮やかな色使いとジェンダーの境界があいまいなアイテムが揃う。ミラーボールからイメージしたラメの光沢、ネオンカラーのロゴを配したトレンチコートなどだ。ロープを束ねて立体的に仕立てたパンツや金属を使った構築的なトップなど、変わった素材を使ってフォルムで遊ぶ。また、レザーアトリエのロエベがサボテン由来のレザーを使ったことも注目だ。バッグにも夜遊びにふさわしい色と装飾がのせられた。

ロエベ
ロエベ

 カラーは、ウォーキングマシーンに乗って歩くモデルの映像を配信した。春夏は、前シーズンに続いて服のパーツを合体させて作るアブストラクトなデザイン。服の断片を寄せ集め、集めながらどう整合性をとるのかを模索している。コートにかぶさるポロニットの襟、シャツに重ねたチルデンニットのフロント、カーディガンのフロントからシャツの襟がアシンメトリーに揺れる。「新しいミニマリズム」と前シーズンのコレクションを阿部潤一は説明していたが、やはり今シーズンもミニマリズムとは言い難い。ただ、アブストラクトなパーツの寄せ集めの中にある調和、落としどころといった考え方は分かる。古着やスポーツウェア、トラッド、モード、あらゆるものを経験してきたからこそ、今の時代の新しさとして、そのあらゆるものを重ね合わせながらデコンストラクトの着地点を目指しているように思える。

カラー

(小笠原拓郎)



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