21~22年秋冬パリ・コレクション 日本発ブランドが光る

2021/03/09 11:00 更新


 21~22年秋冬パリ・コレクションは、日本発のブランドの発表が相次いだ。それぞれのブランドの背景にある強みを生かした新作が充実した。日本のブランドらしいコンセプチュアルなラインがパリで存在感を放っている。

(小笠原拓郎、青木規子)

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 ウジョーは、屋外プールになるはずだった廃墟での無人のショー映像を配信した。そこに登場するのはウジョーらしいテーラードをベースにしたスタイル。テーラードコートを解体再構築しながら、他のアイテムとミックスしていく。チュニックのようなドレスアイテムをコートスタイルに差し込み、スリーピースに仕立てる。かっちりとしたジレとは違う流れるようなドレスがテーラードスタイルにエレガンスを持ち込む。淡いピンクにアブストラクトなプリント柄といった色調が秋冬のポイント。プリントはペイントアーティストの佐々木香奈子によるものだ。シグネチャーともいえるピンストライプの一方で、淡い色使いが新鮮に見える。解体されてベストのようになったベルテッドコートも淡いチェックのウールコートと重ねられる。きもの合わせのような大きなフロント合わせのパンツスーツはその分量とカッティングが独特。タブリエやチュニック、ラップスカートといったアイテムをテーラードスタイルに組み合わせながら、新しいスリーピースの在り方を探るコレクション。それは西崎暢の視点からみたテーラードスタイルのモダナイズだ。もはやワードローブとしては死滅しつつあるスリーピースを現代のファッションとして再定義しようとしている。

ウジョー
ウジョー
ウジョー

 ビューティフルピープルのスタイルが、ぐっと研ぎ澄まされた。艶やかでエレガントな女性像と熊切秀典ならではの新しい発想、その二つを土台にした新作からはブランドの進もうとしている方向が明確に伝わってくる。秋冬のイメージは、50年代のオートクチュール風ドレス。立体的なフォルムのドレスやコートを揃えた。だが、着目するのはそこだけではない。一つの服がドラマチックに変化する。画面の左右には、2人のモデルが鏡をのぞくように立っている。一人のモデルが着るのは裾がたわわに膨らむキャミソールドレス、一方のモデルは胸元にたっぷりとラッフルをあしらった膝丈ドレス。よく見ると2人のモデルは同一人物、ドレスも一つのアイテムを180度ひっくり返したものだとわかる。ロング丈のトレンチコートはケープレット付きのコートに、フライトジャケットはデッキジャケットに。ケープはフィッシュテールに、襟はペプラムのフリルに変わる。リバーシブルやツーウェーで着られる服はこれまでも多くのデザイナーが取り組んできたが、熊切によるそれは変化が劇的。丈も量感も変わってしまう。テーマはダブルエンド。ダブルエンドの鏡のように服の上下をひっくり返して着られたら、なおかつ、そのいずれもが美しく魅力的だったら、新しいスタンダードになるかもしれない。そんな思いが伝わってくる。今シーズンは、パリでのデジタル配信に続き、東京で久々にリアルショーも開催する。

ビューティフルピープル
ビューティフルピープル


 クレージュは、新アーティスティックディレクター、ニコラス・デ・フェリーチェによるデビューコレクションを見せた。白い真四角の空間に登場したのは、60年代に創業デザイナーのアンドレ・クレージュへのオマージュを込めた服。未来的でポップだったイメージを、現代の若者に向けてクリーンにブラッシュアップした。アイコンのビニールジャケットは、スタンドカラーが高く立ち上がり、トラペーズスカートは台形の裾を少し広げてシャープな印象に。ミニドレスは胸元を大きく開けたり、ウエストを大きくカットアウトして官能的なエッセンスをプラスする。キャミソールにはぴたぴたのハイウエストパンツ、タイトなトップにはミニスカートとニーハイブーツ。当時を踏襲した足長ルックも、カッティングを調整してスマートに進化している。パリ郊外の高速道路沿いに設置された箱状の会場脇には、新生クレージュにフィットする若者たちがラフに座ってショーを見ていた。

クレージュ

 パトゥは、モロッコの家を思わせるオリエンタルな空間での撮影風景をアップした。前シーズンに続き、大胆なボリュームをベースに、鮮やかな色とオリエンタルな花柄で彩るコレクション。Aラインのミニドレスは、袖や肩がぼわんと膨らみ、大きくぱりっとした襟で胸元まで覆い隠す。クラシカルなイメージはもはやブランドを象徴するスタイルとなった。色は強い太陽に照らされたように鮮やかだ。黒地に黄色の花柄、青地にピンクオレンジのオリエンタルな紋章柄。紫のトーン・オン・トーン、黄土色とパープルの色合わせも絶妙だ。パフスリーブのブラウスにはジャカードニットの小さなベストを合わせて、ボリュームとコンパクトのコントラストを際立たせる。色柄の服をさらにアクセサリーで飾っていく。厚みのあるビジューのヘアバンドやボリュームのイヤリング。盛りながらセンス良く収める。

パトゥ

 ネヘラの映像は冒頭、マスクをした透明人間が登場する。会場は、病院のように清潔感のある空間。ワクチンを打つと輪郭が復活し、マスクを外して歩き出す。今の世相を演出に取り入れた。作風はいつものナチュラルなイメージより強くてシャープ。ベージュやライトグレーなどのニュートラルカラーを基調にして、きりりとした女性像を表現した。きりっとしたテーラードジャケットに、太く落ち感のあるストレートパンツ。ロングコートはチンストラップをしっかりとめて、首元を覆い隠す。背筋が伸びるようなスタイルだ。

ネヘラ

 ロンドン・コレクションでの発表を予定していたトーガは、スケジュールを変更して、パリ・コレクション期間中にオフスケジュールでデジタル配信した。無機質な空間にモデルが歩く靴音が響く。映像はただモデルが左右に歩くというシンプルなもの。そこで見せる秋冬はこれまでのトーガとはずいぶん変わったイメージだ。ストリートの空気をはらんだマスキュリンとフェミニンの間のデザインが、これまでのトーガらしさ。しかし、秋冬はぐっとエレガンスへと振れている。トランプのように布を重ねたひだ飾りのスカート、スカラップのような曲線の布を袖や身頃に飾ったジャケット、ジャカードニットも大きく肩にボリュームを作る。ダウンコートは巨大な襟がすっぽりと首を包み、そのままフロントに襟先が揺れる。女性らしさを強調する曲線のディテールとコンセプチュアルに作りこんだ造形美が新しいトーガの世界を描く。

トーガ(写真=Anders Edström)

シチュエーショニスト

 映像の舞台は木造やトタンの小さな家々が連なる雪深い街。白い風景の中を、赤やグリーンのコートを着た男女が歩いてくる。緑のアノラックとパンツのセットアップ、黄色いセーターとニットスカート。モダンなワンカラースタイルが、白一色の素朴な田舎で違和感を放ちながら不思議ときれいに映る。深雪の中、水玉のドレスで歩く姿も。独特な美意識が面白い。

シチュエーショニスト

ヴィクトリア・トマス

 ハンカチーフヘムやフリンジなど、ブランドのアイコンディテールをちりばめてデイリーウェアをエレガントに表現した。シルエットはゆったり。だぼっとしたシャツとカーディガンには、量感のハーフパンツ。フリンジが揺れるコートにハンカチーフヘムのドレス、タイダイ風のデニムはジャケットとパンツのセットアップで提案する。VRゴーグルでの視聴を推奨した。

ヴィクトリア・トマス

リトコフスカヤ

 06年にスタートしたウクライナ・キエフを拠点にするブランド。舞台はアパート。大きなテーラードスーツや肩の落ちた大きなコートをばさっと着るハンサムなスタイルを、バスタブやベッド、ソファとともに撮影した。レザーのシャツにはミニスカート、ワンショルダートップにはストレートスカート。建物や家具が持つ無機質な感じがスタイルにフィットする。

リトコフスカヤ


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