21~22年秋冬パリ・コレクションは、布の動きを感じさせるデザインが目立つ。ラッフルやフリルといった丸くフェミニンなディテールではなく、直線的なフリンジやフェザーですっきりとエレガントに表現するのが特徴だ。服の中で体が泳ぐようなゆったりとしたシルエットにすることで、躍動する体を感じさせる表現も目を引く。
(小笠原拓郎、青木規子)
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ドリス・ヴァン・ノッテンは、新作をまとってダンサーが踊る映像を配信した。マッシブアタックの「エンジェル」をバックに、男性と女性のダンサーが緩やかな動きを見せる。体の躍動と服の造形がコントラストとなって、なまめかしい雰囲気を放つ。
白いシャツドレスに留めたバラの花束、パーカやトップにプリントされる真っ赤なバラ、そんなモチーフが生命の毒々しさのようなものを描く。ダンサーの動きとともに、服が滑らかな表情を見せる。それはコートやドレスに描かれた布のドレーププリントのせい。布を畳み立体的なドレープを流したドレスとへアリーなファータッチの素材から、構築性とともに流れるような布の動きを感じさせる。一方、構築的なテーラードコートはたっぷりのボリュームとなって体とのコントラストを描く。筋肉質の足とソックス、ハイヒールがジェンダーを超えた美しさを見せる。ダンスの映像の断片を編集しているため、服のディテールは決してよく分からないのに、なぜか強い印象を残す。それは体と布のディテールにフェティッシュなまでに焦点を当てたからかもしれない。
テーマは「情熱への呼びかけ」。ピュアと情熱、マスキュリンとフェミニンの間で繰り広げられるダンス、融合しやさしく重なり合うジェンダーを表現した。
クロエは、ガブリエラ・ハーストによる初のコレクションを見せた。発表当日は、創業者のギャビー・アギョンの生誕100周年の日。創業当時、アギョンはパリ左岸のカフェ・ド・フロールやブラッスリー・リップといった店にゲストを招いてショーを開いた。それにあやかってサンジェルマンの石畳をランウェーに、新作を披露した。当時、にぎやかだったであろう街は現在、コロナ下で人気はない。静かな夜道を、新生クロエを身にまとったモデルが堂々と歩いた。
新作はどれも70年代調のザ・クロエといったスタイル。胸元をスポーティーなハーフジップに切り替えたロングポンチョに始まり、うろこ状のパッチワークコートやマルチボーダーのロングニットドレスといった70年代ど真ん中のルックが続く。ブラウン、イエロー、オレンジといったノスタルジックなカラーパレットが、そのイメージを後押しする。フリンジバッグにスエードのロングブーツといった雑貨も同様だ。ディテールを控えたり、ワンカラーでまとめたりして今っぽく洗練させているとはいえ、ブランド全盛期の服を見ているような錯覚に陥る。ただ、それは悪い意味ではなく、むしろ、力みがなくて今の時代になじんでいる。
「デザインは控え目に、アクションは大胆に」という新コンセプトのもと、デザインされた。ハーストが重視してきたサステイナブル(持続可能)な取り組みをクロエでも実施しており、新作は前年に比べて4倍、環境への負荷が少ない原材料を使った。
アクネ・ストゥディオスは、ほっこりとした家庭の雰囲気とグラフィカルなカットが共存するスタイルを見せた。壁紙のような小花柄のコートやパイル地のパステルカラーセットアップは、優しいムードを強調する。バッグやアクセサリーには動物のモチーフを取り入れる。そんな柔らかなムードの一方で、グラフィカルな形のバッグや大きなサングラスが未来的なイメージを加える。小花柄のドレスはたくさんのギャザーをいれて肩を拘束するように体を包み込む。懐かしく柔らかな小花柄のドレスをヘアカーフのアニマル柄ブーツが引き立てる。透け感を加えた複雑なケーブルニットはセットアップやスカート、ブーツに仕立てられた。
テベ・マググは前回に続き、今回もショートムービーで新作を見せた。デジタル配信で見るショートムービーの多くは、おしゃれなモード映画になりがちだが、マググのそれは個性的で見入ってしまう。今回は、敵対する黒人女性5人組が戦うストーリー。膝丈の黒いミニドレスを着た勢力に対して、登場したのは真っ赤なベルテットコートの5人。上着を脱ぐと白いフリンジドレス。エレガンスを根底に持ちながら、どれも躍動する体を感じさせるアイテムだ。剣で戦うシーンでは、ニットの伸縮やフリンジの動きにフォーカスした。荒涼とした大地と鮮やかな青空に、ピンクのスーツ、カラフルな抽象柄のセットアップ。色のコントラストも主役といえる。
パリ・メンズコレクション期間中に発表していたオーラリーは、初めてパリ・レディスで披露した。円形の透ける幕を張った白い空間を舞台に、いつもより肩の力の抜けたスタイルを見せた。すとんと落ち感のあるニットドレスに、ガウンのようにラフに羽織るカシミヤコート、足元はムートンのフットベッド。優しく心地良いけれど、ルーズではない。ライフスタイルが変わり、自宅で過ごす時間が増えるなか、癒やしを感じさせるムードを重視した。モデルたちも、生真面目にウォーキングするのではなく、ちょっと歩いては座ったり、おしゃべりしたり。その自由な感じが心地良い。とはいえ、きれいなニュアンスカラーと上質な素材感であくまでもスマート。オーラリーの原点ともいえるムードが戻ってきた。