【2019年・新時代をどう生きるか】静岡鉄道 川井敏行専務取締役

2019/05/16 06:00 更新



 静岡鉄道はおかげさまで100周年を迎えました。地域の課題に向き合い、その解決に取り組んできた100年。当社は、地域に支えられ、地域とともに歩んできました。社会的な価値と、事業を存続させるための経済的な価値という、異なる二つの価値を合致させてきた歴史でした。

新たな収益源の確保

 清水のお茶やみかんなど物産を運ぶために線路を敷き、その後、沿線の人口増とともに事業を拡大させてきました。電車やバス、タクシーなどの公共交通機関を提供し、地域の方に利用していただき、ターミナルに商業施設やマンションなどを運営する。私鉄のビジネスモデルが当てはまったのがこの100年でした。

 しかし、沿線人口が伸び悩み、働き方も変わってきました。社会が変化し、これまでのビジネスモデルが限界を迎えようとしています。静鉄グループでは13年度から21年度までの中期経営ビジョン「GT-100」を策定し、次の100年に向けての基盤づくりに取り組んできました。9年間を3期に分け、最初の3年で意思決定を速めよう、次の3年で競争優位性を高めよう、最後の3年で新たな収益源を確保しようというもので、ほぼ順調に第2期まで完了し、今期から第3期が始まりました。

 新たな収益源の確保とは、新しい顧客を創造すること。そのためには、ひとつは新しいマーケットに挑戦すること、そしてもうひとつは既存事業を再定義して新しい事業価値を生み出し新しい顧客を獲得することです。

 新しいマーケットへの挑戦として進めているのはホテル事業です。昨年度、「静鉄ホテルプレジオ」を静岡県以外では初となる福岡に開業し、今年度は京都に2カ所、来年度は東京・田町、再来年度には大阪・心斎橋にオープンする予定で、21年度には8カ所となります。上質感のあるビジネスホテルとしてブランドに磨きをかけ、成長を目指します。

静鉄ホテルプレジオ博多駅前外観

既存事業を再定義

 一方、既存事業の再定義としては、例えばカーディーラー事業をあげることができます。クルマを仕入れて販売するのがカーディーラーでしたが、クルマを所有することに価値を感じる人が減り、移動の手段ととらえる人が増えています。ですから「お客様にクルマのあるライフスタイルを提案する事業」と再定義することで、店はクルマを売る場所ではなく、クルマのある生活を売る場所としてお客様に新しい価値を提供するようになります。

 電車やバス、タクシー事業も同様に、人々が望んでいるのは移動であって、電車やバスはそのための手段。MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)として再定義して、事業を進化させなければなりません。乗り合いタクシーの実証実験を実施したところ、これまでは時刻表に合わせて移動しなければならなかったのが、利用者の時間に合わせて運行するため、利便性が高いと好評でした。そんなに遠くない将来、自動運転のバスも走行が可能になるでしょう。ダイヤを作るのは我々ではなくお客様。お客様の作ったダイヤに合わせて走る、公共交通機関に変わっていくでしょう。

 商業施設事業も、単に施設をリーシングするのではなく、ライフスタイルを提案する場として再定義し、ライフスタイルを作り、売りたい人と、ライフスタイルを買いたい人の出会いの場を目指しています。3月に「沼津港かねはち」という高感度でセンスの良い海鮮丼を提供されるお店に出店していただきました。沼津港の美味しい食べ物と、地域のお客様が出会う場所です。商業施設を運営する上で、効率は必要条件ではありますが、十分条件ではありません。重要なのは、リーシングを担当している私たちが素晴らしい店と出会えた感動を、お客様と共有することなのです。

100周年ラッピング電車

新しい時代に向けたプロジェクト始動

 静鉄グループの今後の成長に向けて二つのプロジェクトが始動しています。ひとつは地域の3社(静鉄グループ、静岡ガス、テレビ静岡)によるオープンイノベーションプロジェクトです。各社のビジネスリソースを活用して、地域の問題の解決を目指します。キックオフしたばかりで、どこに向かうかは未定ですが、多くの人との出会いの中から行き先を探していきます。解決して欲しい問題を募集し、場合によっては事業化しようというものです。

 もうひとつは、プロジェクト11(イレブン)。静岡鉄道の新静岡駅から新清水駅までの11キロの沿線を、静岡で一番住みたい街にしようという取り組みです。実際に沿線を歩いてみたところ、緑や公園が少ない、人が集まりにくいといった問題が見えてきました。感じたのはデザインの重要さ。良いデザインの街には人が集まってきます。人が集まれば賑わいが生まれ、おしゃれな店やおいしい飲食店もできて、さらに賑わいが増します。これまで電車のデザインはしてきましたが、駅のデザインはしてきませんでした。

 プロジェクト11のメンバーはグループ内で組織していますが、プロジェクトの監修者は外部の方にお願いしています。創業以来、CSV(共有価値の創造)ということばもない時代から、先輩方はノウハウもない中で、自分たちだけの力で自然とCSVを実践してこられた。しかし、自前主義は通用しなくなってきています。これからの100年は、専門的な知識やノウハウ、広いネットワークを持ったパートナーと組み、一緒にやっていく時代です。それを可能にするのがIOTやICT、AIといった先端技術。ユニークな会社、様々な人たちとパートナーシップを組み、ネットワークを広げ、リソースを共有することで新しい価値創造につなげていきます。

掛川S-PLAZA緑化事業

新静岡セノバは過去最高に

 11年10月にグランドオープンした新静岡セノバは17年秋から3期にわたる全館リニューアルを行い、18年春に全面オープンしました。19年3月期の売上高は195億円を超え、入館者数ともに過去最高となりました。

 有力セレクトショップなどファッションセンスの高いショップを集積した1階と2階の関連性が高まり、回遊が生まれています。2階に出店していたヤングカジュアルショップは3階に移動してもらったところ、フードコートや東急ハンズさんとの相乗効果で勢いがさらに加速し、絶好調が続いています。4階は家電のノジマさんの面積を圧縮し、新しいテナントを誘致。圧縮しても売り上げの落ち込みは小幅にとどまり、新規テナント分がフロアの売り上げに付加されました。地下の食物販も売り上げを大きく伸ばしています。

 5階の飲食街は地下の食物販とともに20年に改装する予定です。

 ウェブ会員への情報配信サービスの「マイセノバ」は順調に会員を増やしており、顧客との関係作りで欠かせない存在になっています。来年には、スマホ向けサイトをリニューアルし、地域情報やライフスタイル情報など発信情報を拡大し、利便性を高めます。

 セノバは、テナントスタッフとディベロッパーの親密さに加え、テナントスタッフ同士の仲の良さも特徴的です。昨年開業したセノバ保育園は、地域枠も含め約30人が利用しており、子供を通じた母親同士のネットワークが館内で生まれています。また、店長会や様々な研修会などテナント同士の交流の機会は多く、たくさんのスタッフが参加する夏と冬の懇親パーティーでは様々な仕掛けで参加者を飽きさせないように工夫し、館の一体感につなげています。

 テナントスタッフが気持ちよく、情熱を持って働けるような環境作りに開業以来取り組んできました。テナントが抱える問題に向き合い、解決するのがディベロッパーの役割でもあり、日ごろのコミュニケーションには特に力を注いでいます。

新静岡セノバ

PMはネットワーク事業

静鉄プロパティマネジメントはセノバの運営のほか様々なPM(不動産の運用・管理)事業に取り組んでいますが、今、もっとも力を入れているのは緑化事業です。静岡市は緑化率が低く、街路樹も少ない。静鉄グループのプロジェクト11とも連動し、街に緑を増やし、住みたい街になるお手伝いができればと思っています。また、来店者に潤いを感じてもらえるように、大型店の駐車場に花畑を整備する試みも始めました。静岡県の花緑コンクールで賞をいただくなど、緑化事業は軌道に乗ってきています。

 PM(不動産の運用・管理)事業は、マッチングビジネスです。地主さん、プランナー、施工業者を結びつけ、不動産を最適に活用し、価値を高めるのがPMの役割です。そのためには人脈作り、ネットワーク作りが何よりも大切。今、様々な施設管理などを通じ、色々な人に参加してもらい、ネットワークを広げようとしています。

 人と人、地域と地域を結び付けてきた静鉄グループの一員として、PM事業を通じて人と地域のつながりに貢献していきます。

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静岡鉄道株式会社 専務取締役
静鉄プロパティマネジメント株式会社 代表取締役社長
川井 敏行 氏

静鉄グループ

静鉄グループ概要

 静岡鉄道を中核に、交通事業、流通事業、自動車販売事業、不動産事業、レジャー・サービス事業、建設事業など28社で構成する。静岡鉄道の創業は1919年。新静岡セノバは2011年に開業。

静鉄プロパティマネジメント株式会社

【住所】〒420-0839 静岡市葵区鷹匠一丁目14-5

【URL】www.shizutetsu-pm.co.jp

静岡鉄道株式会社

【住所】〒420-8510 静岡市葵区鷹匠一丁目1-1

【URL】www.shizutetsu.co.jp



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