【FB革命前夜 変わる消費/売り方編】

2018/02/18 04:59 更新


 テクノロジーによって、客の買い物体験や店のあり方が大きく変化する。物を手にする消費者の選択肢が広がり、今よりもっと自由にファッションを楽しめる時代がやってくる。

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ビッグデータ活用 TSIホールディングス 賢く作って賢く売る

初回生産や追加数量を、AIを活用して需要予測を最適化する

 「賢く作って、賢く売る」――TSIホールディングスはAIやビッグデータを活用し、初回生産や追加発注の需要予測精度を高める共同研究を、センシー(SENSY=旧カラフル・ボード)と進めてきた。来期には実装段階に移る。購買履歴や顧客情報などの内部データに、メディアでの露出や気候といった外部データを掛け合わせて需要を予測し、プロパー消化率や最終消化率の向上、値引率の最適化により、粗利の改善につなげるのが狙いだ。

 こうした取り組みを同業他社に先駆けてきた。AIは、「ディープラーニングさせることでシステムが進化するため〝早い者勝ち〟。16年からテストをしてきたことはアドバンテージになる」(齋藤匡司社長)。すでに、初回生産の精度については今期から結果につながっている。

 また、「ICタグ」「データ解析カメラ」「ブルートゥース」をデータ収集のための〝三種の神器〟とし、売上高の上位百数十店から導入、2、3年後には700~800ある全店舗に導入する。

 ICタグはすでに「ステューシー」では全店導入済みだ。リテールIoT(モノのインターネット)サービス「リテールネクスト」のカメラによる入店客のデータ解析では、コンバージョン率を分析。「買わなかった人の情報がビッグデータのポイント」となる。またブルートゥースの整備を通じて店頭でのアプリのダウンロードを徹底し、自社EC化率を高めていく。

 「考えるのはAI。決済するのは人」。収益力の改善を販売員の給与に反映させるほか、人は人にしかできないこと、するべきことに時間を割けるようになる。

 デジタル化が進み基盤整備されることでゆくゆくは、「物の良さがクローズアップされてくる」というアパレル本来の競争が始まる未来を描く。

テクノロジー パルコ テナント業務も支援


 「テクノロジーを使ってどう面白くできるのか、社員みんなが考えている」。デジタル化が遅れているとされるSCや百貨店で、ICT(情報通信技術)活用を経営戦略の重点に置き、先行しているのがパルコ。林直孝執行役グループICT戦略室担当は「テクノロジーの発展で接客は来店前からすでに始まるようになった。接客を〝拡張〟することで、お客様にとっての満足、テナントの売り上げの両方を高めることができる」と話す。

 接客の拡張というコンセプトに照らし合わせ、

  1. アプリ、ウェブによる接客
  2. IoTによる客のリアルな行動・行動要因分析
  3. VR・AR(拡張現実)などの体験
  4. ICタグやデータ連携など商品・在庫

――の四つの角度でデジタル化を進めている。そして全てのデータを統合、AIの活用で接客の質を高めていく考えだ。

 17年11月にオープンしたパルコヤ(東京・上野)では、ショップごとに来店者数や来店者の属性(年齢・性別)を解析するカメラを取り入れた。未購買客の分析に役立つとともに、テナントの販売計画や人員体制計画の策定に貢献するのが目的だ。

 また自走式ロボット「シリウスボット」の実証実験も開始。19年秋に開業する渋谷パルコでは、営業時間内は日本語と英語による案内を行い、ロボットが客の希望のショップまで連れていく。閉店後はICタグを読み取り、テナントの在庫確認など棚卸し業務を支援し、ECでの各ショップの在庫情報に反映させるといったサービスの実用化を目指す。

実証実験を進めている「シリウスボット」

 こうしたデジタル化は、パルコと取引するテナント側と「両輪で進めることで効果が発揮される」ため、「常に新しい技術を取り入れ、パルコの姿勢を発信し続けたい」という。

AI ティファナ・ドットコム 接客手助け、マーケティングにも

セブン&アイグループが開業したプライムツリー赤池は、新技術による「商業施設の新しい接客の形」を目指す

 接客をアシストするAI(人工知能)が、これからのスタンダートになりそうだ。17年11月に開業したプライムツリー赤池(愛知県)は、国内SCで初というAI会話システムを搭載した人型ロボットを導入した。開発したティファナ・ドットコムは「AIは怖くない。自分の仕事をサポートしてくれる存在」(横山洋太取締役)と強調する。

 人口減で人が集まらず、すでに採用は限界を迎えている。人の手を介さなくても接客できるソリューションが求められており、その一つがAIだ。

 プライムツリーでは館内案内など簡単な客の質問に、AI搭載ロボットで接客できる。やりとりはデータ化されるため、AIに学習を繰り返させることで接客レベルが向上するほか「サービス改善やショップの導線などマーケティングにも活用できる」。4言語対応で20年に向けて増えるインバウンド(訪日外国人)の機会ロスを減らせるという点でも注目だ。

 AI接客ロボットというワードだけでは難しく感じるかもしれないが、「店の中に大きなスマートフォンを置くという感覚。使わない方が損をする。お客もだんだん慣れ、普通に利用されるようになります」。

VR サイキックVRラボ 商品特性をダイレクトに体感

伊勢丹新宿本店で中里周子さんがプロデュースして開いた「未来の百貨店」ではVRが活用された

 クラウド上でVR(仮想現実)空間を制作・配信できるプラットフォーム「スタイリー」を提供するサイキックVRラボ(東京)はファッション分野でのVRサービス提供で先行している。すでに、三越伊勢丹やパルコと期間限定店での協業などファッションの先進的な企業との取り組みが始まった。

VRを体験する女性

 VRは平面だけでは伝わらないものを置き換えるメディアとしても活用でき、物作り分野での広がりも期待する。サンプル作りをVR空間で行うことで、時間やコストの削減も可能だ。

 期間限定店やブランドの展示会では、店舗やブランドの表現したい世界を、時間や空間の制限なく見せることができる特性を生かす。空間内では、あらゆる角度から撮影した商品を3Dで映し出し、拡大も縮小も自在。

 「消費者がダイレクトに商品特性を体感できる仕掛けはリアル店舗に行って現物を着てみたい衝動を引き起こす」。高い技術やユニークなアイデアをVR空間内で形にし、企業の規模や知名度にかかわらず世界に打って出ることも可能になる。

VRコマース エスキュービズム 実店舗をバーチャル空間に

ネット上で実店舗を体験しながら買い物ができるVRコマースのサービスを提供

 IT(情報技術)ベンチャーのエスキュービズム(東京)が提供する総合的なサービス支援プラットフォームパッケージ「オレンジ」オペーレーションは、〝VRコマース〟と呼ぶ次世代オムニチャネルのECの構築も支援している。モデルケースとして、子供服のファミリアがすでに活用している。

 VRコマースは、実店舗を360度あらゆる角度から撮影したものをウェブサイトにのせ、ECにつなげるというもの。VRといってもヘッドマウントを使って写し出すものではなく、実店舗での体験と同様の感覚がウェブ上で得られるのがポイント。実店舗に来店している客がVRコマースを利用することでさらに来店回数を増やし、結果として店舗売り上げの増加につなげる。

 一方、CGで理想の店舗を作成し、ブランドの訴求力を強めて売り上げの向上につなげるという、ECをVRコマース化するサービスも行っている。



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