【パリ=小笠原拓郎】20~21年秋冬パリ・コレクションも佳境に入った。デザイナーたちは、今の時代にふさわしいモダンや新しい美しさを探っている。今シーズン、目立つのはエンターテインメントの要素を取り入れたショー形式。演出効果を高めたショーが増えた背景には、服の力だけで新しさを描くのが困難になっていることがあるのかもしれない。そんな中、「コムデギャルソン」はあくまでも服の力で時代を切り開こうとしている。
(写真=大原広和)
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コムデギャルソンは、量感のコントラストを生かして新しい美しさに挑んだ。大きなヘッドピースから流れるべールに顔を隠したモデルたち。つるっとしてフラットな質感の布とドレープの立体的な布を切り替えた服をまとって現れる。雲のように膨らんだパッデッドピースが、直線的なラインとコントラストを描く。たっぷりしたドレープのジョーゼットのパーツと、フラットなメルトン地のパーツがくっきりとした対比を見せる。
装飾を盛り込んでいるようで、どこかミニマルに見える。作り込まれながら同時にそぎ落とされているかのような不思議な感覚。形容矛盾のようにも思えるのだが、装飾とミニマリズムが共存しているかのような感覚に襲われる。抽象化された服の概念が凝縮されていった結果、研ぎ澄まされシンプルに見えるということなのだろうか。
これまでも、いわゆる一般的な服の概念の外側にあるもの=アートにつながる領域の力を借りることで、新しい美しさを描いたシーズンはあった。しかし、それはしばしばオブジェのようでもあり、時にとても大きな量感の表現になった。今回もそうした一連のコムデギャルソンのデザイン手法の延長線上にはあるのだが、過去のどのコレクションとも違う静寂さのようなものを秘めている。その結果、装飾とミニマルという二つの相反する感覚を内在するラインとなったように思える。
全てをやり尽くしてしまったプレタポルテの50年を経て、見たこともない美しさや全く新しいことに到達することは簡単ではない。しかし、コムデギャルソンの作ってきたデザインの進化を土台にしながら、それでもなお未来につながる何かを探っている。「今回はコムデギャルソンワールドからの続きとして何が新しいかを探すことが仕事だった。形にするに当たり、自然が作り出した造形がイメージを助けてくれた。自然が作り出した形に未来像を感じる」と川久保玲。