【ロンドン=小笠原拓郎、若月美奈通信員】19年春夏ロンドン・コレクションにマクラメ編みやカットオフ、フリンジディテールを取り入れたナチュラルなムードが広がっている。ヘムラインに揺れるフリンジやマクラメの素朴な透け感、ウッドピースのひも飾りなどが、リラックスした気分を運ぶ。
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雷鳴とともにメアリー・カトランズの19年春夏コレクションは幕を開ける。白と黒のグラフィカルなセットアップに切手のようなスクエアの柄のパーツを重ねたグラフィックドレス、パッチワークにビニールパーツをレイヤードしたドレスなど、メアリーの構築的なドレススタイルがずらりと揃う。
グラフィカルな柄は、よく見ると様々な切手や生き物の柄。それをミリ単位の小さな柄から徐々に柄を拡大していくことで、グラフィック柄のように見せる。チョウの標本をずらりと描いた柄は、ダミアン・ハーストのアート作品のよう。
この春夏は、メアリーの10年のコレクションのアーカイブを背景にしたもの。切手の柄のドレス以外にも、布をフロントに折りたたんで立体的なフォルムにしたドレスやデビューコレクションの香水瓶をビジューで描いたドレスなど、過去の作品にもう一度光を当てた。
フィナーレには会場の円形のパーテーションが上がり、過去の作品が並ぶ。シーズンごとに、時代にぴたりとはまったコレクションもあれば、そうではないものもあった。しかし、改めて振り返ってみると、なかにはクチュールピースのように作り込んだ作品もあって驚かされる。そして、デビュー当時からクオリティーがしっかりしていることにも気づかされる。だからこそ、このコレクションが力強く見る者の心に響いてくる。

シモーン・ロシャは18世紀の中国の女性からイメージを広げた。香港とアイルランドの二つのルーツを持つ自らの原点の一つに焦点を当てている。黒、白、赤、ピンク。シモーンらしい色なのだが、その表現はいつもとは異なる。
得意とするAラインのガーリーなシルエットではなく、コクーンやバルーンのボリューム感。チャイナ服に使われるジャカードや刺繍、アジアの花柄、チュールをかぶせた中国の帽子といったさまざまな中国からの要素を散りばめる。
中国の女性の姿を描いた鮮やかなプリントドレスにはチュールを重ねて陰影を出す。足元は、もさもさとした長い毛足がはみ出るサンダル。これまで、甘さと同時にどこか強さも感じさせるクリエイションを見せてきたシモーンだが、春夏はそのどちらでもないスタイル。いわば、甘さや強さよりも異質な何かを選んだ意欲作。民族的なスタイルを背景にして、シモーンのフィルターを通して作ったラインだ。これまでの顧客がついてこれるかどうかが鍵となるが、それよりも自らのオリジンについてこの時期にどうしても振り返りたかったというところであろう。

たっぷりのギャザーやフリルを生かしたボリュームドレスを得意とするモリー・ゴダードは、これまでよりもシンプルで大人っぽくなった。ショー会場には、露店のようなテントに野菜の空き箱が積み重ねられている。そこに登場するのはギンガムチェックにフリルテープやタイポグラフィー刺繍を入れたドレス。ナチュラルなグリーンのギンガムチェックやブラウンのスカートに花のジャカードセーターを合わせたクリーンなスタイルが揃う。
どことなく毒のような強さをはらんだガーリーなイメージが薄れ大人っぽく見えるのは、決してモデルがキャベツを抱えているからではない。スモッキングとギャザーの量感を生かしたドレスもあるのだが、すっきりとしたカッティングが増えているためだ。ペプラムジャケットやシャツのセットアップもしっとりと落ち着いたネイビーで仕立てられた。しかし、やはり最後は透けるギンガムチェックやドットのボリュームドレスで存在感を見せた。

ジェイ・ダブリュー・アンダーソンはナチュラルでラスティックなムードを盛り込んだ。ブランケットのようなスクエアパーツを取り入れてハンカチーフヘムのドレスに仕立てる。ジャケットやパンツには部分的にマクラメ編みを切り替えて、素朴な雰囲気をプラス。ボザム飾りをつけたシャツドレスにもマクラメやビジューを飾る。
これまでロング&リーンのシルエットの中で、低いボトム位置にポイントを置いたバランスを作ってきたジョナサン・アンダーソン。しかし今回はバランスが少し上がってウェアラブルなラインになっている。
コットンドレスはウエスト辺りがベアバックになったディテール、ニットのタンクドレスは部分的な透かし編み。軽やかな肌の見せ方で、今までのような重さを感じさせない。ニットドレスのショルダーにレースのケープレットのようなパーツをつけたディテールも目立った。パンツルックはスクエアの生地を切り替えたセットアップが軸になる。布を巻きつけたようなヘッドピース、厚底のレトロスニーカーやブーツといったアクセサリーでまとめた。

(写真=catwalking.com)