「宙ぶらりんな状態で決まらない。それが何よりも問題」。7月に開かれた国際素材見本市のミラノウニカで取材したイタリア企業の経営者から、そんな声が聞かれた。米国の関税措置について触れたコメントだ。取材から1カ月ほどが経ち、事態は刻々と変わっているだろうが、その時点では直接的な影響はないものの、取引先の縫製地の変更で生地の送り先が急に変更になった例があり、混乱は少なからず起きていた。
方針が定まらない、先行きが見通せないというのは企業にとっても、人にとっても様々な負担がかかる状況だ。この数年、高齢化や人手不足、物価高などを背景に働き方への関心が高まっている。「パーパス経営」が世間で注目されたのは3、4年前だった。最近では、退職代行業やクワイエットクイッティング(静かな退職)という社会問題も浮かび上がっている。
「転職が当たり前になった」とよく耳にする。だが、社員の退職をどこか時代や世代間の価値観の違いを理由にして「若い人はそういうもの」と済ませていないだろうか。一度、胸に手を当てて考えたい。
(麻)