ここぞという時のために馬革のベルトを1本持っている。コードバンではないが、自分にしては思い切った買い物だった。ジャケットに隠れ、決して目立たないが、このベルトを締めれば、どんな相手にも気後れしない(ような気がする)。振る舞いにも余裕が出てくる(ような気がする)。
ベルト一本で心持ちが随分違ってくることは確かだ。気合の入った取材や重大な契約、大切な行事にはいつも付き添ってくれた。
腹をすえる、腹をくくる、腹におさめる、腹に落ちる――腹は体の中心にある。だから重要な決断や大切な事柄は腹に入っていく。ベルトで腹を締めるのは、大切なものを失わないようにするためだ。上気して自分を見失わないように、プライドを失わないように、正気を失わないように、腹に締めたベルトが守ってくれる。
知人が家を買うという。彼にもベルトを贈ることにした。コロナ禍で先が見通せないなか、守るものを増やそうというのだ。この先、どんなに苦しいことがあっても、腹をすえてかかれよと激励を込めて。
(原)