《視点》忘れられない時間

2021/08/13 06:23 更新


 人にはそれぞれ心に響く名曲がある。私にもいくつかあるが、そのなかの一つに旅立ちを後押しする歌がある。人生の応援ソングといった感じで、霧が晴れるようなすがすがしい情景が頭に広がる。それはいつ聞いても良い曲だが、シチュエーションがフィットすれば、一層心にしみる。

 昨年4月の1回目の緊急事態宣言下、世の中から喧噪(けんそう)が消えるなか、新しいスタートを切る人に向けてオンラインでその曲が流れた。通常であれば卒業や入学、就職を祝ってもらえるタイミング。だが、あの時は明るくキラキラしたムードは皆無で、親や子にすら会えない人が多かった。そういった状況の中で、歌が伝える思いやりや温かな気持ちは、威力が倍増したように思う。通常では感じられない感情が生まれ、忘れられない時間となった。

 そういう時間をいかに提供するか。それが今、クリエイションに求められていることなのではないかと思う。

 ファッションにおいても、ただ良い服を作るだけでなく、いつ、どこで、どのように身にまとうと魅力が倍増するか。どうすれば、その服を着た時間が心に残るのか。そんなことを想像させる商品が欲しいと思う。伝えたいことを明確にし、丁寧にアプローチすることが、物の価値を高めていく。

(規)



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