《視点》頑張れないを認める

2020/07/02 06:23 更新


 「やる気がないのを認める」。アパレルや商社の人材育成制度の取材時、ある担当者の興味深かったコメントだ。

 その会社は人材育成における評価基準が整備されていて、全職種の給与がその基準に連動する。皆が自己研鑽(けんさん)し、レベルアップできるのが理想。だが現実はそうはいかない。中には「私はもうこれ以上は頑張れません」という人もいるようだ。

 この担当者はそれを否定しない。「分かった。ただ給料は現状維持だよ」と伝えるにとどめるそうだ。結果、専門職の退職が大幅に減ったという。その理由を「頑張りどころが分かったんだと思う。やみくもにもがくことがなくなれば人は安心する」という。

 企業が求める最低限の能力があれば、それをどこまで伸ばせるか、伸ばそうと思うかは個人間に大きな隔たりがある。ライフスタイルを重視する価値観を持つ人も増える中、「頑張れない」を認めて、適切な配置をする方が結果的に企業利益につながる側面もあるだろう。

 決して記者のモチベーションが低いわけではないのは、末尾に付け加えさせていただきたい。

(森)



この記事に関連する記事