最初は自分のワイシャツだけだったが、ついでついでと頼まれて、気が付けば家族全員のアイロンがけを任されるようになった。毎週日曜日の夕方、1時間ほどのルーチンだ。
生地がよれて新しいしわができたり、設定温度が熱すぎて生地がつるつるになったり、やけどしたり、最初はとにかくつらくて苦しかった。手間と時間をかけてしわを伸ばしても、褒めてもらえない。主婦が嫌う家事の上位にランキングされるのは分かる気がする。
それでも何年も続ければ多少は上達する。失敗も少なくなったし、誰かに指南したくなるノウハウもできた。いい服はスムーズにアイロンが滑り、思い通りにしわが伸びる。アイロンのかけ心地の良い服は、着心地もいいことに気付いた。
パターンも引けないし、縫製もできないが、アイロンがけを通して、なんとなく芯地の使われ方や丸みの出し方が分かってきた。自己満足だろうけど、「少しは俺たちの声が聴けるようになったな」と服に褒められたような気になる。苦しいと思ったことも続けていけば、やがて苦しさを突き抜ける。
新しい日常の始まりは、新しい挑戦の機会にあふれている。継続するその先に、新しい成果が待っている。
(原)