シーン、ジェンダー、シーズンと様々な境目が薄まるなか、テキスタイルも従来とは異なる用途に向けた開発が盛んだ。あるメーカーでは、ベルベットがプレミアムダウンブランドに採用された。元々フォーマルが主用途。素材や加工を変えてカジュアル分野にも広げてきたが、ダウンへの採用は初という。
側地の差別化要素だった薄さや軽さ、機能、天然繊維調が一定出尽くしたうえ、スポーツとファッションの融合が進んだことで目が向けられたと思われる。メーカーは、今度は街着を意識するスポーツアパレルを開拓しようと、加工で着古したような綿ベルベットを作っていた。定番とは対極をなしながら、エレガントな雰囲気も残し、新鮮に映ったようだ。
新素材が次々と生まれる時代ではない。ジャンルの境目に縛られない開発こそ、今必要とされる「他にないもの」に応えられるのではないか。発想を変えたり、眠っていた技術を掘り起こしたりして、技術の蓄積が花開いた例を今年はたくさん見たように思う。用途によって求められる物性は異なり、それをクリアすることが前提だが、日本には実現できるメーカーがたくさんある。
(侑)