時代の変化に応じてビジネスモデルを進化させてきた商社の繊維事業だが、主力である製品OEM(相手先ブランドによる生産)に綻(ほころ)びが生じている。国内市場での成長が期待できず、各種のコストアップ、中国の環境規制の強化が重くのしかかる。将来を楽観する見方は皆無。ビジネスモデルの変革を加速、新たな階(きざはし)に踏み出す。
あらゆる部分で効率を
「どこで作るかは重要ではない」(三井物産)。これが、今を象徴するフレーズだ。この10年間、商社の大きな関心事は、チャイナプラスワンへのシフトだった。中国の人手不足と顧客からのコストダウン要請があり、ASEAN(東南アジア諸国連合)、バングラデシュでの調達を強めてきた。
その結果、衣類輸入に占める中国のシェア(重量ベース)は08年の91.1%から17年1~11月(速報値)には69%に下落。一方、ASEANは6%から23.5%まで高まった。
ただ、この流れは落ち着きを見せている。素材背景が充実し、生産効率が高い中国は極端に落ち込むことはなく「中国が70%、中国以外が30%に落ち着くだろう」との見立てが有力だったが、現在のところ、その通りの動きだ。ASEANのコスト上昇も目立ち、想定したコストダウンが見込めない事情もある。
どこで作るかが重要ではないのは、どう作るかが重要になったことを意味する。各社は商品調達する顧客の基本的なスタンスを、「確実に売れそうな物を短納期かつ小ロットで」と受け止めている。仕入れ抑制も顕著だ。生産地移転だけで対応できるものではなく、あらゆる部分での効率化が求められる。
まず浮かぶのが、既存の縫製工場での改善だ。日鉄住金物産は「自社、協力工場を問わず、効率の良い工場もあるが、そうでない工場もある。デジタル化、見える化をしっかり考えたい」という。縫製ラインの省人・自働化に向けた動きも活発だ。双日は研究を進めてきた縫製ラインの自働化(無人化)について、18年度にパイロットラインを設置して「事業化できるめどがついてきた」。豊田通商も省人化、ロボット化に向けた研究に着手しており、「24~25年にはものにしたい」と意気込む。
デジタル技術をフルに
企画面も含めた効率化に向け、デジタル技術の導入推進も出てきた。三井物産はOEMビジネスで「デジタル技術をフル活用する」方針。需要予測、AI(人工知能)によるMDなどを想定。「仕組みそのものを効率化してコストをコントロールできるかが大事」と強調する。
日常の業務についても効率化が進む。帝人フロンティアはRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入に積極的だ。加えて、商品供給では環境配慮を強く打ち出している。欧米だけでなく国内企業も環境への関心を強めており、環境に配慮したバリューチェーン構築が、今後の商社に不可欠という象徴的な事例と言える。
新たな分野への進出も成長には欠かせない。その点で、方針を明確にしているのが伊藤忠商事の繊維カンパニー。現時点では18年度からの中期経営計画は公表されていないが、伝わってくるのは、IT(情報技術)関連の強化だ。従来から各事業会社のEC拡大、AIを用いた需要予測などを推進してきたが、ITとの関わりを今以上に深め、投資も検討している。
事業投資から事業経営へという流れも強まりそうだ。商社の事業経営で、とりわけ川下分野の経営は簡単ではないが、原料、テキスタイル、製品OEMの出口としての役割に加え、ビッグデータを収集する意義も強まってくる。それだけに外部人材の起用だけでなく、川下企業を経営できる人材育成がより大きな意味を持つことになる。
変化はチャンス
商社はファッション業界で、原料、テキスタイルの輸出、製品OEM、ブランドビジネス、事業投資など、時代によってビジネスモデルを変えながら生き残ってきた。現在はデジタル技術の進展に伴い、全産業が変革の時期を迎えている。ファッションビジネスも例外ではなく、生産、販売の両面で変革が急ピッチだ。
商社トップが共通して指摘するのが「変化の激しい時代は商社にとってチャンスだ」という点。商社は自らイノベーションを起こすことが全てではないが、「顧客の一歩先を行って、足元を照らすことが大事」(伊藤忠商事)。変化に対して機敏に反応し、自らの機能をどう発揮するか。これを考え抜くことができる企業が生き残る。