東レは、多摩美術大学にスエード調人工皮革「ウルトラスエード」を提供し、2カ月間のワークショップを行った。6月23日に同大学で最終報告会を開き、学生ら25人が成果を発表した。新たな発想による作品の数々に「まだ様々な表現ができると教えてもらい、非常に感動した」(安東克彦ウルトラスエード事業部長)とし、今後も取り組みを継続する。
【関連記事】東レ「ヒトエ」 作業者見守りで需要伸びる
ワークショップは、同大学内の素材研究室「CMTEL」(シムテル)が「ウルトラスエード・デザイン・クッキング」の名称で主催。素材の基本情報の講義、中間・最終報告会を行った。参加者は、生産デザイン学科から学年を問わず募り、卒業生や助手も加わった。共通の素材を使ったワークショップとしては「かつてない規模」となり、個性豊かな作品が集まった。
ウルトラスエードは、不要になった生地サンプルや試験反を活用。参加者はそれぞれ、講義や実験を通じてウルトラスエードの魅力を見出し、様々な表現に落とし込んだ。例えば、プロダクトデザイン専攻の葛西日向子さんは、カットしてもほつれない点に着目し、生地を幾重にも重ねて美しい裁断面を強調した構造体を作った。熱で溶けて硬化する特徴を生かしたのは、シムテルの伊藤綾香さん。ホットシーラーを使い、二枚の生地を重ねずに突き合わせて接着したり、熱による色と質感の変化で縦畝を出し、東レの参加者を驚かせた。「欠点とされてきた熱による色の変化も、柔軟な発想で利点に変えてくれて、良い刺激になった」と安東事業部長。今回のワークショップを発案した安次富隆多摩美術大学学長補佐・教授は「産学連携は、学生の自由な発想が価値になる。学生と接することで忘れていた刺激を得られる」と話した。参加者の作品は8月23~28日に東京ミッドタウン・デザインハブで展示され、中高生を対象にワークショップも予定する。
東レは16年から、国内外の教育機関に生地を提供し、次世代のデザイナーを支援するとともに、知名度やブランド価値の向上に力を入れてきた。この5年で認知がグローバルに広がってきたとし、今後も継続する。今回の取り組みで「新しい発想が可能性を切り開いてくれると感じた」とし、素材開発の産学連携も視野に入れる。